食の未来が見えるウェブマガジン

「偽りのボロネーゼ」から「未来のプリン」まで。おいしいの本質に迫る”New Delicious展“


2020年2月15日に、ユナイテッド株式会社の社員食堂でありながら、一般客でも利用できるレストランとして2019年に森枝幹シェフがプロデュースしサーオープンした「UB1TABLE」が会場となった”New Delicious 展”.
このイベント内容を考案した一流料理人は森枝幹シェフと薬師神陸シェフのお二人。

「今召し上がっている魚は、なにか分かりますか?」とお客さんに料理を出し、しれっとBGMをブラック・サバスに変える。料理を食べるお客さんも遊びを広く知っているほど楽しめるイギリスのスラングで「痛風」という意味の「Salmon & Trout」を2014年立ち上げた森枝幹シェフ。
著者も初めて訪れた時「体験とクリエイティブを食べる」が一緒になった五感をフル回転させてもらい最高に楽しい美味しい「新しい」記憶に残る時間を過ごした。
食べているお客さんが楽しんでいる隙に「サスティナビリティ」をさらっと組み込んだ、真の食の紳士、エンターテイナー森枝幹シェフは、著者が知っている中でも早くから私達が食べる「生き物」に目を向けて、海のサスティナビリティをこの「Salmon & Trout」で発信し続けてきた。食材を通し、かつ美味しい料理に含まれたメッセージ。

著者はアメリカで生活している間に何度も「ブラックバス」を食べる機会があり、正直に言って一度も美味しいと感じなかっただけに、森枝幹シェフの魚料理の一皿にある「ブラックバス」を当てることが出来なかった。あれは今でも悔しい記憶に残った良い思い出。上品なお出汁ベースの澄んだスープに浮かんだブラックバス。凄腕の料理人である。

そして薬師神陸シェフといえば、現在「食のリテラシーを磨く」をコンセプトに地方、日本全国あらゆる場面で現在活動されている、辻料理師専門学校のマネジメント科を学んだのちに同校で講師をし、その後、昨年卒業されたレストラン「SUGALABO」を立ち上げから5年間、予約が取れなくなる人気店へ須賀シェフと共に作り上げた薬師神陸シェフ。古典フランス料理の基礎、技術からイタリアン、中華まで習得し、それ以前に幼少期より生まれ育った愛媛県の地元で日本古来の郷土料理が身近にあり、料理人を目指したことがあった腕前の祖父の影響より、自らも包丁を持ち、その頃から家族に料理を作っていたという。その頃に自然と身に備えた「食」本来のリテラシーが生活の中にあったのであろうと、今の「薬師神陸」という料理人を形成しているように思えた。

お二人のシェフ自らが、昨年の11月からずっとアイディアを出し合い考えに発案したイベントの内容は、コース仕立ての4つの料理。これまでに誰も体験したことがないであろう「情報」「合理性」「健康」「解放感」を表現した未来の「価値観・考え方」を体感するものだった。
この4つのワードから今、「あぁ。」と思った人がいると思う。言葉がもつイメージと先入観。先入観はある意味「考える」ことを無意識に停止してしまうようなものだ。わたしもその傾向がある人間ですが、人間の本質には「めんどくさがる」があるのだと思う。

会場に入ると、無機質で清潔感のある演出は、ピーンと空気が張ったよう。ほどよい緊張感は背筋がピシっとなります。装飾を省いたデザインは、そこにいる人の心も頭の中も一旦リセットしてくれるようで、誘導を示すようなPR要素もないため、「自由」を得たように感じた。

木の仕切り板に、かわいいイラストと4つそれぞれのテーマを象徴する内容のストーリーが書かれている。それはどれも「現代」の人の思考や考え方を象徴するような内容で、コミカル。読み終えると他人事のようにクスッと笑ってしまうのはなぜだろう。未来を想定した内容は、今すでに起きている事実も含まれていた。笑えない。
急に悲しい気持ちになり、そんな自分に対する矛盾と無責任さを感じた。

円状のテーブルに通され着席すると一枚のカードと食器が置かれていて、カードにはこれから運ばれてくる4つの料理は、「情報」「合理性」「健康」「解放感」を表現していること、食事をして「あなたの「おいしい」にどんな変化があったかを言葉にしてみてください」というものだった。

さっそく一品目を森枝幹シェフが運んできてくださった。2種類の鮪のカルパッチョ。好きなほうを選んでくださいとのこと。赤身の色と肉厚さにそそられた私は、迷わず左のお皿を。

一見醤油が似合いそうなまぐろを軽くドレッシングでマリネされたサラダと一緒にいただく。鮪自体がとても美味しく、ゆっくり味わいたくなる。右のお皿を選んだ人のカルパッチョも気になった時、実は選ばなかった方のお皿も今日は両方のまぐろを食べていただきますと。そして次に選ばなかった方のカルパッチョが私にサーブされた。

先程の鮪と違い、魚特融の生臭さがあった。そのためなのかケッパー、ミントが散らしてあり、さらに添えられたレモンを絞ったほう断然美味しく感じた。あと少しで食べ終えるという頃に、左の鮪は銚子でとれた高級な黒本鮪、右のカルパッチョは宮城県産のびんちょう鮪と説明があった。さらに説明は続き、黒本鮪は「獲り過ぎ」によって資源量がもっとも懸念されているとのこと。味がとてもよく美味しいため高級で値段が高く、宮城産のびんちょう鮪は「海のエコラベル」と呼ばれる、環境に配慮した持続可能な方法で撮られているため、水産資源枯渇を食い止める第一歩となるMSC認証を受けた鮪だという。

本鮪の貴重性、価値、高級、資源を管理せず食べ続けた場合は黒鮪がいなくなり、結果食べられなくなる。MSC認証を受けた鮪は、黒鮪に比べて少し生臭い。違法な漁業が行われていないため、資源を守りながらも私達は持続的に食べることが出来る。
なるほど。2皿、異なるたくさんの「情報」を食べた。

最初に戻ると、実はこの1品目は「情報はおいしい?」と書かれた料理だった。

食べ終えたらカードを裏返すことが許され、そこには
「素材の背景に目をむけたら。あなたはどんな「情報」がおいしい?」と。
そして参加者全員それぞれ感じたことを好きに書く時間をあたえられた。
私は率直に感じたことを書いた。

「とても美味しかったあの黒本鮪。高級と言われるだけあって人を魅了する味がする。
他に食べる「食べ物」が溢れているこの日本で、資源量が減っているという生き物を、なぜあえて私が食べる必要があるのか。そもそも減っている生き物を「美味しい」が理由だけに本当に食べたいと、自分は心底思うのだろうか。そう考えたら、とても気持ち悪く感じた。
あんなに美味しいと感じ、楽しかったさっきまでの時間。
素材の背景を知ったことで、楽しい気分とは真逆の気持ちになってしまった。美味しいものを食べてこんな気持ちになるのは初めての経験だ。」

それからこれに繋がる色々なことを考え始め、気づいたら止まらなくなっていた。
この記事を読んでくださっているあなた、

「あなたにとってどんな「情報」がおいしいですか?」

続いて、2品目のメニューは「スマートサラダ」。
一皿に、無臭のグリーンの球体と、ロメインレタスを少しグリルして焼き色が美味しそうに香るひと手間のかけたシーザーサラダ。
まず、球体からいただく。口に入れるとすぐはじけ、クリームのように流れ出、知っている味がした。まるでシーザーサラダのドレッシングを一口で飲んだかのよう。秒だった。
そして、ロメインレタスのシーザーサラダをいただく。グリルした箇所とそうでない箇所の2通りの味わいと歯ごたえを楽しめ、さらにクルトンの香ばしいサクサク感がアクセントに。こういった少しの手間が加えられたことによって、野菜を食べている以上の美味しさを感じて楽しい。食べ終えるに5分位だったと思う。

2品目の料理の名前は「合理性はおいしい?」だった。

どちらも、まったく同じ品目、分量の野菜で薬師神陸シェフが作られたというから驚いた。形や調理法が変わると、同じものからできていても、こうも味が違うもののように感じることにも驚く。そしてその調理の技もすごい。

私が参加した会は全員で14人。育った環境も違えば、仕事も趣味もみんな違う。色んな意見や考え方が飛び交うのが醍醐味。

「一口でサラダ一食分を食べられるなら、毎食これ食べたい!!」
「一口で飲み込み、香りも、食感もなく噛まないことが、食べる行為をしたと体感することができなくストレス。」などなど。

「食べる」といっても、人によって色んな目的があるのかもしれない。私が考える「食のリテラシー」の根本にあるものは「生きるために食べる」が原則。そこには楽しみよりも、生命を維持するが優先にくる行為で、合理性や楽しみとまた少し異なる側面。
仮に今、飢餓状態になったとし、生きられるなら、目の前にあるものをなんでも食べるのが合理性とも考えられる。そして、その時、それが「おいしい」にきっとなるのだろう。それは食があふれている今の日常では食べないものだとしても。 まんまと、沢山考えさせられています。

この料理を食べていないのは知っていますが
「あなたはどんな「合理性」がおいしいですか?」

おまちかねメイン3品目!「偽りのボロネーゼ」。
タイトルからそそられます。
イタリアンレストランでボロネーゼを頼むことがないので、久しぶりのボロネーゼにドキドキしながらいただくと、 美味しいいー!! ソースがこれまで食べたボロネーゼの中でも一番の美味しさ(私の中で)。理由は、個人的に苦手な肉汁の酸化したような油臭などを一切感じなく、コクも旨みもあるのにサラッとしている。そしてパーフェクトなアルデンテ加減。美味しすぎて、私の全ての五感も神経も一旦この料理に集中。美味しい時間に浸りながら、今日は一流シェフお二方のお料理をコースで同時に食べられるなんて! 今日来れて本当によかった・・と至福を感じた瞬間でした。

でも、何が偽りなのか、ソースに集中して噛みに噛んでみると、動物の味がしない。酸化した肉汁感も感じないため、お肉が使われていないのかも!と思った時、ボロネーゼソースに使用したものは、大豆由来の「インポッシブルミート」という種あかしをしてくれました。

3品目の料理名は、「健康はおいしい?」。でした。

「インポッシブルミート」をご存知の方も多いかもしれませんが、アメリカではスーパーマーケットやアメリカのバーガーキングのパティにも使われるほど、需要がすさまじく伸びているといいます。日本と違ってヴィーガンの人が多い理由もあると考えられますが、企業側の理念は「人類が地球環境におよぼす破壊的な影響を大幅に減らすことにある。」だという。
「健康はおいしい?」が3つめの料理でしたが、とにかく「偽りのボロネーゼ」は美味しかった。
それが、日本ではまだ販売していないずっと食べてみたかった「インポッシブルミート」大豆由来であることには驚き、もちろんそれはシェフの腕前があったことも前提。
わたしの主観ですが、鉄分が含まれ高タンパク質の牛肉も健康によいと思っています。大豆もイソフラボンや動物性脂肪がない面が体によいと思っています。
何が体によいものかというのは、これもまた人が信じる情報はそれぞれあると考えさせられました。

今回いただいた「インポッシブルミート」がとても美味しく、さらに素材誕生の背景の情報を知ったことで、さらに大ファンになった理由があります。全世界の畜産業から放出される温室効果ガスは、全体の15%を占め、そのうち半数は牛によるものだと聞いていますが、牛の畜産に頼らずにすれば、どれほど温暖化ストップ、飼育屠殺される牛の数を大幅に減らすことができるのだろうと。
先々の未来、サスティナビリティにどう繋がるのか、など色々考えさせられました。
今日のところ、私はメリットしか考えられない。「インポッシブルミート」を考えた人は天才だと考えます。が、みなさんはどう思うのでしょうか。

「あなたはどんな「健康」がおいしいですか?」

待っていました4品目の最愛のデザート、「未来プリン」。

私にとっては非常に見慣れない姿、格好をしたプリン。斬新。これが未来なのか。
大好きなものはとことん食べつくす性格なので、プリンにもうるさいです。
一口いただき、超美味しー♡ 最後にハートがつく美味しさ、分かります?

でも、「未来」と言っているから、素材が乳製品でないとか、砂糖を使っていないとか、まだわたしたちが知らない食材を使っているのかなんなのか。頑張って考えてみようとしますが、とにかく美味いから、美味しいって味わっていたいから、脳が至福に浸ってリラックスしたいと言って、一旦思考停止。

グラニュー糖の味を感じなかったので、「グラニュー糖を使用してない!」と、かなり適当なことを言ってみると「上白糖」とのこと。そこは大事なポイントではなかったようです。
種も仕掛けもない、“普通においしい”卵を使用した純粋なプリンだと種を明かされ、食べている全員が一斉にほっとした笑顔になり解き放たれたようだった。
そして、あえて「不格好」な姿にする工夫をしたという薬師神陸シェフ。
見た目からのとっつきにくさはそれが理由、錯覚現象でした。プロのシェフはなんでも作ることが出来るのが本当にすごい。

4品目のデザートの料理名は「解放感はおいしい?」。

全員のリアクションを見て、この場にヴィーガンの人は一人もいないと気づいた。
「おいしい」と感じるひとつの要素に、「食べ慣れたもの」も含まれると思っています。そしてほっとする味、食べると安心する料理って皆さんにもあると思うのですが、まさに「解放感」。私が偶然にもヴィーガンでなく、小さいころからプリンを食べ、大好きになってそこから色んな種類のプリンを、ご褒美や休日に食べてきた結果、だからこの場でも感じることができた「解放感」。
仮に全世界に卵と乳製品というものが存在しなかったとして、わたしたちがこのイベントで初めて“プリン”を食べたとして、「解放感」を味わえただろうか。
きっと3品目のメインにあった「偽りのボロネーゼ」で全員が見せたリアクションのようになったに違いないと思う。

最後に参加者全員で、今日の感想、それぞれの考えをディスカッション。
十人十色の考え方や感想は学びも多く、気づかされることもたくさん。とても面白い時間でした。
どこの国、環境で生まれ育ち、どんな信念をもち、その一人の人生の生き方、選択によって口にする食べ物がみんな全て違う。食べると落ち着く、ほっとするご飯「解放感」は人それぞれなんだと、これまで以上に解放的に物事を考えられるようになりたいと思った。

そしてそれぞれが、「おいしい」と思う食べ物をイラストにして、大きな一つのボードにはりつけて、イベントは終了。

普段あまり考えることがないことを、たくさん考えるきっかけを与えられ、頭の中までもお腹いっぱいの「おいしい」イベントでした。

「食のリテラシー」「サスティナブル」という共通した考えをもち、食の神髄を身に備えておられる森枝幹シェフと薬師神陸シェフのお二人。食べ物を通じて、自分、そして今日初めて会う知らない人の考え方も一緒に体験するこれまでになかった新しいクリエイティビティ。
お二人が生まれも違い、歩んできた道がそれぞれ違ったからこそ、今回の”New Delicious 展”を生み出すことができたのだと確信しました。


森枝幹
1986年生まれ。調理専門学校を卒業後、オーストラリアへ留学。世界のベストレストランの常連「Tetsuya’s」で料理の基礎を学び、帰国後は日本料理の「湖月」、分子ガストロノミーで有名なマンダリンオリエンタルホテル内「タパス モラキュラーバー」で料理人としての修行を積む。3.11を経て独立し、南青山「246COMMON」で屋台を経営。2014年より、「Salmon & Trout(サーモン・アンド・トラウト)」を開業、2018年まで同店のシェフを務める。ほかに、フードマガジン「RiCE」の発行や、新宿ゴールデン街のレモンサワー専門店「The OPEN BOOK」の深大寺の「maruta」プロデュース、社員食堂の監修やフェスのイベントのキュリエーションなど、従来の料理人の枠にとらわれない活動を続ける。

薬師神陸
1988年、愛媛県生まれ。 幼い頃、祖⽗の影響でキッチンに⽴つ機会が多く、料理⼈の道を志す。 2008年〜辻調理師専⾨学校のフランス料理講師としてスタートし、  教育指導を初め、テレビの料理監修・雑誌制作等幅広く活躍し6年間務める。 2014年〜今や予約困難なレストラン『SUGALABO』(東京/神⾕町)の⽴上げから尽⼒。  同店のシェフとして国内外を⾶び回り、⽇本の素晴らしい⾷材・⼯芸・酒など  ⾷に纏わるコンテンツをシェアしプレゼンするために、夜のみレストランとして完全紹介制で料理を振る舞う。  全国の⾃治体や⽣産者とのコネクションを強く持ち、  レストランと並行してJALのfirst class機内⾷の担当やイベント企画、メニュー監修等に⼒を注ぐ。 2019年7月 独立。 「⾷のリテラシーを磨く」をコンセプトに新しい料理⼈の働き⽅をつくる。 イベントディレクター、ケータリング、セミナー、メニュー監修など多彩に活動する。

インスタグラム:https://www.instagram.com/rikuyakushijin/?hl=ja
@rikuyakushijin


取材・文・撮影=中村まりこ
SHOKUart代表 料理家

東京出身。
ELLE grumet 公認料理家、企業様向けレシピ提供、ケータリングプロデュース、イベント・講習会講師、料理教室 鎌倉legame cooking 主宰、フードスタイリング、ラジオパーソナリティー、食に関する記事の執筆など、枠にとらわれない活動をしている。
食に造詣の深い祖父、そして父とウクライナ人の母から2つの食文化の環境で育ち、高校3年間、世界23ヵ国で生活、ホームステイで経験したことを原点に、料理の道へ。
和食材も自由に取り入れた料理ジャンルからでなく、環境と自然界に寄り添ったサスティナブルな食材を使い、素材からボーダレスな料理を、「現地の食べ物や土地、そして「人」と文化に関わり、本物を見て体験してから自分なりに理解して伝える」を軸にし、独創的な組み合わせで「empirical&unleash」を表現する「SHOKUart」設立。
外国の方にむけて「私達の日常、本当の和食を伝えたい。」という思いから、日本家庭料理の料理教室 ”Authentic Japanese Cooking Class” も主宰。
外国人向けのWedマガジンサイトへのレシピ提供も手掛ける。

https://www.shokuart.com/
instagram:@this_is_mariko_


SNSでフォローする