コロナ禍はパリの高級ホテル群にも多大な影響を与えたが、パティスリーがホテルのネームバリューの生命線を支えてきたと言っても過言ではない。ホテル「ル・ムーリス」のシェフ・パティシエ、セドリック・グロレの活躍は有名だが、それに続くのは「リッツ・パリ」のフランソワ・ペレ。1954年創立の「レ・グランド・ターブル・デュ・モンド(世界の最高の食卓)」で毎年選出する世界最高パティシエ賞にも、グロレの2017年に続き、2019年に受賞。正面玄関のヴァンドーム広場に仮設したポップアップショップの成功に手応えを覚えて、今年6月パティスリー「リッツ・パリ・ル・コントワール」をホテル内にオープン。
アイボリー・ローズカラーのスイートなインテリアに、今まではホテル内のサロン・ド・テでしか味わえなかったペレのスペシャリテがずらりと並ぶ。中に蜂蜜あるいはフランボワーズのピュレを閉じ込めたビスキュイを、生クリームで覆ってマドレーヌを象った「アントルメ・マドレーヌ」。パッション風味のキャラメルを合わせたライスプディングを中に閉じ込めた「リッツ・オ・レ」。中にバニラクリームを隠し入れて、チョコレートでコーティングした「アントルメ・マルブレ」など。
スペシャリテの味わいをドリンクに開発した「飲むパティスリー」もオリジナル。たとえばビーガンパティスリーの「バルケット・キャラメル」なら、オーツ麦乳をベースにしたキャラメル風味のドリンクなど。パイ生地をフィンガータイプに仕立てて貝を挟んだサンドイッチも。ラグジュアリーホテルの軽食やパティスリーをお持ち帰りできるというコンセプトは、これからも広がっていきそうだ。
「ヴェルサイユ宮殿に宿泊する」という夢のようなプロジェクトが現実となった。敷地内オランジュリー庭園に面した歴史的建造物が、5つ星ホテル・スパとして生まれ変わったのだ。ルイ15世のお抱え建築家マンサールによって1681年に建てられ、国防省として機能していた場所。観光資源の再評価、活用化を目的とした国家プロジェクトの一環で、2015年に入札を募集すると、最近ラデュレも買収したLOVグループのプレステージホテルブランド「Airelles」とアラン・デュカスグループ が組んで落札。約5年の改装工事を経て、6月1日にオープン。
太陽王の庭園や広大な水池「スイス人の池」も眼下にできる、スイートを含む14室をはじめ、すべての内装は、国立文化財委員会会員エマニュエル・ヴィダル・ドゥラグノ女史の助言のもと、当時の様子に限りなく近い18世紀スタイルに復元。アラン・デュカス監修の朝食、ティーナーム、ランチ、ディナーにも、ヴェルサイユの黄金時代ゆかりのエスプリが散りばめられ、タイムスリップをしたかのように。王の果樹園で採れた新鮮なフルーツや野菜。マリー・アントワネットがとりわけ愛した、オレンジ花水風味のショコラ・ショー。ディナーは、18世紀までのフランス料理の献立の構成を現代風に再現する。アントレの前にはポタージュ、ルルヴェ(ポタージュの次にサービス料理)、ロ(ロースト料理)、アントルメ(メインとデザートの前にサービスされる料理)などと7つのサービスで構成。デュカス自身のコレクションであるアンティークの皿なども使用されており、サービス係は18世紀の装いという驚き。宿泊しなくとも楽しめる美食だけでも是非体験してみたい。
Reported by Aya Ito
本記事は雑誌料理王国318号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は318号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。