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【インタビュー】パリ、モナコ、ロンドンで三ツ星を獲得したスターシェフ アラン・デュカス


パリ、モナコ、ロンドンで三ツ星を獲得し、フランス料理界をけん引し続けるスターシェフ

アラン・デュカスさん

時代は変わっている。「精進料理」にインスパイアされ、魚と野菜、雑穀を主役に据えました。

 モナコ「ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス」、パリ「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」をはじめ、世界中に20以上のレストランを展開するアラン・デュカスさんは、日本でも「ベージュ アラン・デュカス東京」「ブノワ」の2店を率いる。

 5年目を迎える「ダイナースクラブフランスレストランウィーク」の記者発表では「知識の伝達は、若手料理人への支援と同様にきわめて重要。彼らの成長と成功をサポートすることは、シェフとしての務め」と述べた。東京・青山でその心境と哲学を聞いた。

30年の歳月の果てに肉料理をメニューから外した

──2014年9月、「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」から、肉料理が消えましたね。「ジビエの国」にあって「ナチュラリテ」のコンセプトは、衝撃的でした。それはなぜ、どうして今なんでしょうか?

 じつは今までもやっていたんですが、改めて、地元にある食材を大事にすること、生産者の顔を知ること、そして彼らと対話をしながらレストランを発展させていくこと、に意識を向けたいと考えたからです。それに、今フランスでは、これまで以上に健康志向が強くなっています。単に身体に良いというだけでなく、地元にあるものを、徹底的に使っていくことが望まれています。

──健康とテロワール?

 地球上の資源が無くなりつつある。この時代にあって、料理人も「お客様に何を食べさせるのか」「どういう生産者が作っているのか」などを、もっと理解しなければならない。レストランも、そういう責任感をもってやっていかなければならない時代になったと思います。

既成概念を捨てることで見えてくるものがあります。野菜とシリアルと魚だけでもおいしい高級料理はつくれます。

──料理人は、健康問題や環境問題も考えていかなければならない、と。

 しかも今は、野菜や果物、シリアル、魚といった食材で、高級料理も作れる時代です。だからこそ、ガストロノミーを提供するレストランであっても、体に良いものをお出しする責任があると思います。

──その発想はいつ、どこからきたんですか?

 野菜とシリアルだけの料理は、モナコの「ル・ルイ・キャーンズ」で、1987年5月27日からやっています。当初は、それをオーダーしてくれるお客様は多くても3%ほどでしたけれど……。でも、30年経った今は、それが30%弱にまで伸びてきているんです。

──毎年1%ずつ上がってきたということですね。

 そうですね。つまり、お客様の意識が変わり始めた。それこそが、お客様の生の声。時代は変わりつつあるということだと思います。

 そして今、野菜とシリアルに魚を加えて、「完成したレストラン」になった。年くらいかけて、ガストロノミーの試みが、新しい「アラン・デュカス・オ・プラザアテネ」へと昇華した、と感じています。

──それにしても、年前に野菜と果物とシリアルだけというのは、凄いことですね。

 でもね、既成概念を取り払ってしまえば、それほど凄いことではないんです。

 今までは、皆、既成概念が強過ぎたんです。「魚だけでは赤ワインが飲めない」とか、「野菜やシリアルが中心ではフランス料理は成立しない」とか、「野菜とシリアルでは高級料理にならない」とか……。

──イメージに縛られていた?

 既成概念といっても、実際にはそれほど深く考えているわけじゃなくて、単なる思いつきだったりする。実際にやってみて説明すれば、人は理解できるんです。根拠のない既成概念を払拭すれば、もっと健康的な食生活になるだろうし、もっと地球の資源を意識しながら食事を楽しむこともできる。そうしたことを、広く伝えていきたいんです。

──でも、概念だけじゃなくて、実際のフランス料理の歴史もあるのではないでしょうか? 「フランス料理といえばジビエよね」という考え方も、現実にはあると思います。それを覆す発想というのは、どこからくるのかなぁ、と思ってしまうのですが……。

 それも既成概念なんです。フランス人だって「ジビエ」というイメージが定着しているだけで、実際にはそうでもありません。

 私は58歳ですが、幼い頃から自家菜園の野菜や、森で採れる食材を使った家庭料理を食べて育ちました。肉を毎日食べていたわけではないし、それで栄養に問題があったわけでもない。ですから私にしてみれば、技術さえあれば、地元にあるものだけでおいしい料理をつくることができるのは当たり前なんです。自家菜園の野菜は、農家で採れた野菜に変わったけれど、パリでも、じつは子どもの頃の記憶を再現しているだけ、とも言えるんです。

──ベルサイユ宮殿の畑で野菜を作っていらっしゃるそうですね?

 そうなんです。宮殿の畑の土が凄くおいしい。それで、おいしい野菜ができるんです。その野菜を、レストランに届けてもらう。ちょっと離れているけれど、感覚的には自家菜園と同じなんです。

「30年近く前に始めた野菜とシリアルだけの料理。当初はお客さまの数%しか興味をもってもらえなかったけれど、今はその30倍のお客さまが注文してくれる。時代は確かに変わっていると思います」とデュカスさんは話す。

フランスの食材と技術を使い精進料理の精神を表現

──デュカスさんのお話には、日本の精進料理と多くの共通項があると感じました。「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」のメニューからお肉が消えたということは、たいへん思い切ったことではあったけれど、私自身、とても受け入れやすいと思ったんです。

 まさしくその通りです。

 棚橋俊夫さんという精進料理人がいます。気難しい方と言われていますが、とても哲学がしっかりしています。2カ月ほどパリに来ていただいて、精進料理という哲学、味付け、優しさ、食材を大事にすること、などを教わりました。実際に、もっと見たいと思ったからです。調理のプロセスにも独特の哲学があって、とても勉強になりました。

 棚橋さんの料理を目の当たりにして、さまざまな情報もいただいたし、いいコラボレーションになったと思っています。食材にはフランスの技術を加えていますが、その考え方は精進料理からとったことに間違いないです。

──さすがデュカスさん、さすが棚橋さんということですね。ところで、全世界で20以上も星を持っていらっしゃいますが、どうしてそのようなことができるのですか?

 まず仕事をたくさんすること。もっと上を目指して向上心を持つこと。あとは規律と倫理。自分にも圧力をかけるし、人にも圧力をかける。威厳や誇りも大切だと思います。

──ハードワーク、向上心、規律と倫理、そして威厳や誇り……。

 あと3つある。

 ひとつは物をつくれること。2つ目は伝承すること。3つ目は伝えること。具体的に言うと、ひとつ目は、まさに自分が料理をつくること。2つ目は自分が作ったものを他人に知らせること。3つ目は、メディアを通して世間に伝えること。この3つで成功するかどうかはわからない。けれど、私はそういうモットーで生きています。

──それだけでも大変なことです。料理だけじゃなくて、すべてに言えることでしょうね。超ご多忙の中、興味深いお話をさまざまな方向からありがとうございました。

「野菜とシリアルと魚だけではガストロノミーは完結しない」という固定観念を覆した新コンセプトの料理。精進料理にインスパイアされたというデュカスさんの鋭い時代感覚と発想が息づいている。「食材と技術はフランス、考え方は精進料理」と言う。

民輪めぐみ=インタビュー 山内章子=構成 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国第253号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 第253号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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