日本全国から厳選した食材を使ってイタリア料理を作る「パッソ ア パッソ」のオーナーシェフ、有馬邦明さん。
調味料にもなみなみならぬ思いがある。
今回はそのひとつ、鮎を活用した自家製調味料についてお話をうかがった。
2002年に東京・門前仲町に店を構えて以降、下町の本格イタリアンとして人気を保ち続けている「パッソ ア パッソ」。素材を活かした料理に定評があり、冬はジビエ、夏は鮎のメニューが看板料理だ。
その有馬邦明シェフ。実は調味料もいろいろと手がけている。鮎を使うものだけでも、魚醤、アンチョビ、うるか、酒盗、フレイバーウイスキーなど、10種類ほどをも揃える。
鮎の調味料が多いのはスペシャリテで使う機会が多いからだが、イタリア料理の場合、塩焼きにして丸ごと食べる日本料理と違い、身は使っても内臓や骨、頭を使うことはない。そこで調味料に利用するというわけだ。食材として調味料として一皿に鮎を使えば、味わいを複合的にして奥行きを出す役割も果たせる。
そこにはもちろん、食材をムダにしない思いもある。天然の場合、とれる鮎の大きさが予測できない。ときにはフィレにするには小さいものしか届かないときもある。そんな食材も余さず使うためにも調味料は役に立つ。
鮎は南は熊本から北は秋田まで、季節ごとに全国約10カ所から取り寄せる。また有馬シェフ自身が鮎釣りを行うこともあり、そうなると鮎に対する愛しさもひときわだ。
なぜこんなにも鮎の調味料が多いのか。鮎の場合、魚にありがちなクセがないので、汎用性が広い面も大きい。
旨みを凝縮した自家製鮎の調味料は、例えば魚醤はコンソメスープに一滴入れるだけでも表情がガラリと変わる。全体の味わいを引き締め、料理の輪郭を発揮しさせてくれる。
たっぷり使わなくても、ほんの少量で料理のアクセントに十分になり得るのだ。
ところで、鮎の調味料に汎用性があるのは、クセが少ない川魚ゆえだが、養殖だとこうはいかない。養殖魚はエサを食べて育つので、身そのものはきれいでも、内臓にはそれまで食べたものが蓄積されるので、どうしてもエサのニオイや味が浸透する。となると、雑味となり、調味料に使用するにはむずかしい。
一方で天然の鮎は、川の中のきれいな苔を食べる。これが内臓までも、くさみがなくクリーンなのだ。
せっかくいい調味料を作ろうとしても、原料がいまひとつだと元も子もない。
もともとは料理に使うために優れた自然の食材を求めて全国を回ったわけだが、いいものは調味料にも転用でき、素材を余すことなく活用できる。
実に理にかなっており、かつ近年叫ばれるようになった、フードロスをなくす、トレーサビリティが明確な食材を使う、といったSDGsにもピタリと当てはまる。