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風土の理にかなった調理法を取り入れる「パッソ・ア・パッソ」有馬邦明さん


イタリア・パルマのアカデミアバリラ財団のマスターシェフに選ばれた「パッソアパッソ」の有馬邦明さん。同賞は世界各地でイタリア料理の普及に努めるシェフを顕彰するもので、イギリスやカナダ、香港などの11人のシェフとともに受賞した。

「単にイタリアの味を忠実に再現するのではなく、イタリア料理の概念や手法を踏まえたうえで、その土地の調理法や伝統なども取り入れ、その土地の素材の持ち味を最大限に引き出すのがイタリア料理の真髄だ、という僕の考え方が認められたと思います」とうれしさを隠しきれない。

有馬さんのイタリア料理は日本の食材を使うのが大原則。イタリア産は、パスタやオリーブオイル、白トリュフといった限られたものだけだ。だが、このスタイルに至るまでにはさまざまな試行錯誤があった。

有馬さんが同店をオープンしたのは2002年。オープン後数年は、いかにイタリアで学んだ本場の味に近づけるかに腐心する毎日だった。しかし、料理を作っていてもイタリア時代のようなわくわくする楽しさがわき上がってこなかった。いったい何が原因なのか?悩んだ末に思い当たったのが素材の違い。なかでも水の違いだったという。

「イタリアの水は硬水、日本の水は軟水。この違いで調理法も素材の扱い方も変わるんです。だから、イタリアで学んだことをいくら再現しても、思いどおりに素材の持ち味を引き出すことができなかった。それに気がついたら、ぱっと視界が広がりましたね」と、当時を振り返る。

たとえば、ニンジンのペースト。イタリアではローストして旨味を引き出していた。しかし、日本では少量の水を加えて蒸したほうが格段においしい。硬水では旨味が出にくいが、軟水は旨味を引き出しやすい。蒸すというのは日本の風土の理にかなった調理法なのだ。また、ジェノヴェーゼを作る際にも、イタリアで学んだレシピどおりでは何か物足りなかった。日本のバジリコはイタリアのものよりも香りが弱いため、ニンニクの量を抑え、香りが控えめなEXVオリーブオイルを組み合わせないとバランスが崩れるのだ。

それからというもの、自分が料理する土地の素材や調理法を知らなければと、休日のたびに日本各地の生産者を訪ね歩き、日本料理や郷土料理を食べ歩いた。その中で、各地にはその風土に合った素材や食材の組み合わせがあることを知り、風土の理にかなったイタリア料理を提供する方向をめざしていった。「日本のイタリアンどころか、東京イタリアン、沖縄イタリアンと、その土地ごとのイタリアンがあっていい」と確信したのだ。

これからは世界に向けて日本のイタリアンを発信

今回紹介するのは、そうした日本の風土を踏まえた、アユの塩焼きをイメージしたひと皿。アユの塩焼きは丸ごと焼いて、頭から骨ごと食べるのが醍醐味だ。アユ自身の脂でやわらかく焼き上げるので骨までやわらかくなり、苦味の利いた内臓がソースとなる。これをイタリア料理で表現したのが、このリゾットなのだ。

ナイフとフォークを使うイタリア料理では、身は枚におろして焼いたほうが食べやすい。残った骨や頭はリエットやブロードに〝変換〞して食べ尽くす。内臓は自家製のうるかと合わせて煮詰め、上品な苦味の利いたまろやかなソースに仕立てた。蓼酢は、実山椒と葉山椒のジェノヴェーゼにアレンジした。

「アユは日本ならではの魚であり、季節感溢れる食材だが、西欧人が苦手とする内臓や骨の旨さが身上。そこで、アユの持ち味を最大限引き出してイタリア料理に変換し、ヨーロッパの人々にも日本の食材や未知なるおいしさを知ってもらいたいという思いを込めた」と有馬さん。

これまでイタリアから多くのことを学んできた。これからは日本のイタリアンとして発信することも必要ではないか。そう考え、有馬さんは次のステージを模索し始めている。

アユの焼きリゾット

アユの骨のブロードで炊き上げた焼きリゾットの上に3枚におろした身と頭や骨を使った濃厚なアユのリエットをのせ、上品な苦味の内臓のソースをあしらった。山椒のジェノヴェーゼや松茸がアクセント。丸ごと一尾食べ尽くすアユの塩焼きをイタリア料理で表現した。アユは島根県高津川産。

有馬さんに聞く3つの質問

Q1│イタリアで衝撃を受けたイタリア食材は?
A.ペスカ・デ・ノーチェというクルミくらいの大きさのモモ。カリカリとした食感で、焼くとおいしいということに衝撃を受けた。

Q2│これから使ってみたい未体験の日本の食材は?
A.金沢の塩麹。ホップ、米麹、塩でできていて、イタリアの発酵調味料にも似た味わい。野菜にも肉にも合いそう。

Q3│自分のイタリア料理の核としている味は?
A.イタリア・トスカーナ州での修業時代にお世話になった“マンマ”の家庭料理。この料理からもてなしの原点を学んだ。

パッソアパッソ 有馬邦明さん
1972年大阪府生まれ。96年渡伊、ロンバルディア州の「ヴィニェート」やトスカーナ州の「チブレオ」などで修業。 2002年2月、「パッソ ア パッソ」をオープン。「アカデミア バリラ財団」のマスターシェフを受賞。

text:Toshie Shimizu /photo:Hisashi Okamoto

本記事は雑誌料理王国第206号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第206号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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