編集部が推す次世代イタリア料理シェフ#3「カーサ ディ カミーノ」川上春樹シェフ


「定番食材のトマト」と「シェフらしさやイタリアらしさを表現」という2つのテーマを設定し、6人のシェフに挑んでもらった。そこから浮かび上がってくるのは、彼らのイタリア料理に対する明確な哲学だ。


カーサ ディ カミーノ
川上春樹

1985年、東京都生まれ。22歳のとき、修業先であった「フラットリア」黒澤シェフの仕事に触れ、料理の概念を180度変えられる。ピッツェリア「サルヴァトーレ・クオモ」を経て、2014年に「カーサ ディ カミーノ」をオープン。多彩な手打ちパスタを得意とし、頭の中には300近くのレシピが入っている。写真で手に持っているのは、20代前半から現在まで、仕事におけるあらゆるメモを書き留めてきたノートの一部。川上シェフの歴史が詰まった大切なアイテムだ。

食べ終わるのがもったいなくて
ずっとそばにいて欲しい料理

町のパスタ屋のコックさんがオープンキッチンで料理している姿に憧れて、料理の世界に入りました。僕にとってパスタは、イタリア料理の中でも唯一無二。食べ終わるのがもったいなくて、ずっとそばにいて欲しい存在なんです。パスタに対して「おいしい」を超越した感情を抱くようになったのは、フラットリアの黒澤シェフが作ったカルボナーラが原点でした。当時22歳。もちろんカルボナーラは何度も食べていましたが、自分が知っているカルボナーラとはまったく違って。口に含んだときの感動は今でも覚えています。あれから経験と歳を重ね、自分の店を持つようになった今、あの感動を自分が作ったパスタで味わっていただくことが僕の仕事。そのために大切にしていることは、手間暇をかけて下準備を行なうという、修業時代に最初に教えてもらった料理の基本です。そして、おいしくて心躍るイタリア料理の世界にのめり込んだ初心です。

22歳の頃から書き留めているノートを見返す度に、初心が蘇ります。心躍る料理を作るには、自分が仕事を楽しみ、常にワクワクしていなければダメ。そんな気持ちが、僕のパスタを食べた子どもたちに伝わって、やがてイタリア料理のシェフを目指すなんてエピソードが生まれたら、料理人としてこの上ない幸せです。

Al Pomodoro

スパゲッティ・アル・ポモドーロ

弱火でじっくり、甘みを引き出す優しい味

優しく、甘く、どこか懐かしくなるトマトソースは、玉ねぎ、人参、セロリ、ニンニクをたっぷりのオリーブオイルでじっくりとコンフィにして溶かし込んだ、野菜100%の凝縮感ある甘味だ。更に酸味よりも甘味に比重を置いたオスミックトマトを合わせたところに、きりりとした胡椒を思わせる刺激とミントのような清涼感があるバジリコ・ナーノを飾る。川上シェフは、肉以外は基本的に弱火で時間をかけて調理する。(長本和子さんの)古代イタリアの食の勉強会に参加する中で、「当時は強い火力はなく、弱火が基本だったはず」と、考えるからだ。このパスタの原型は、師と仰ぐ高田馬場「フラットリア」の黒澤明弘シェフのポモドーロ。「フライパンをかっこよく振る姿に憧れて料理人の道を選んだ」けれども、さりげない動きで格段においしい料理を作る黒澤シェフに憧れた。「ちゃんと食材を見なさい」。黒澤シェフの教えは、折に触れて思い出すように、自室に貼ってある。

Loro Itariano

ラザーニャ・コン・カチョ・エ・ペペ

目の前にある食材で、自分が好きなものを。

「その土地にあるものを使っておいしいものを作る、それがイタリア料理だと思うんです」。店からあまり遠くない、東京都福生市出身の川上シェフにとって、それは店の前の庭に生える桑の葉であり、家のそばにある農産物直売所から自ら買ってくる地元産の野菜だ。形も味も時期や生産者によってバラバラだ。でも、今、目の前にあるものをおいしくしていくのが自分の仕事だと思っている。「ラザーニャ」とは、「重ねる」という意味で、もっと自由で良いのだと、黒澤シェフに教わった。だからこそ、ローマの郷土料理で、個人的に大好きなチーズと胡椒のパスタ、カチョ・エ・ぺぺと組み合わせた。桑の葉と地元のビーツで彩りを加えた生地を重ねて筒状に巻き、薄切りにして伸ばした渦巻き柄のラザーニャ生地の間は、カチョカバロ、タレッジオ、マスカルポーネ、リコッタチーズを挟み込んだ。「どっちか」ではなく、「どっちも」。「欲張り?やっぱり、自分が好きなものを提供したいんです」。店名はイタリア語の「温かい家」に苗字の「川上」をかけた。地域に根ざした温かさ、それはイタリア料理の根底に流れる本質と響き合う。

カーサ ディ カミーノ
東京都国立市東1-14-22 ハイム114 1F
TEL 042-505-5561
昼11:00-14:00 LO
夜18:00-21:00 LO 土日祝日 17:00-
月曜休、夏季・冬季休業あり
http://casadicamino.com/


text 馬渕信彦、仲山今日子 photo 堀清英、花村謙太朗

本記事は雑誌料理王国2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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