編集部が推す次世代イタリア料理シェフ#4「メログラーノ」 後藤祐司シェフ


「定番食材のトマト」と「シェフらしさやイタリアらしさを表現」という2つのテーマを設定し、6人のシェフに挑んでもらった。そこから浮かび上がってくるのは、彼らのイタリア料理に対する明確な哲学だ。


メログラーノ
後藤祐司

1979年、千葉県生まれ。パスタ店を営む父親の背中を見て育ち、16歳でイタリア料理の道へ。日本で8年間の修業を積み、渡伊。ペルージャ「オステリアバルトロ」、ラグーザ「リストランテ ドゥオーモ」で腕を磨き、2015年に「メログラーノ」を独立開業。写真で手に持っているのは、イタリアの蚤の市で入手したアンティ―クのレードル。耐久性や機能性は日本製に劣るものの、このレードルを使うことで「イタリアの厨房で作業している気持ちになれる」そう。

創作的な料理よりもイタリアを感じさせる料理を

イタリア修業時代に習得した料理は、現地でイタリア人が日常的に食べる料理。なので、あくまで僕の引き出しのひとつに留めています。心がけていることは、日本人のお客さんがイメージするイタリア料理の、半歩先の料理に仕上げて提供すること。例えばイタリア現地では存在しない組み合わせや、ボンゴレ、アマトリチャーナ、ナスのパルミジャーノなど定番過ぎてあまり料理人が作らない料理もやります。ミュシュランの星を狙ったコレクション的な料理や和素材を打ち出した創作的な料理とは真逆の、お客さんとイタリアのつなぎ役になることを大切にしています。イタリアの料理が食べたいと思って来てくださるお客さんは、隠し味にワサビを使った料理よりも、もっとトマトを感じたいと思うんです。そういった要望を察し、満足して帰ってもらえる皿を常に考えています。

今までは極端な話、日本におけるイタリア料理とは何かだけを考えてきましたが、2年ほど前から他ジャンルのシェフたちと日本の魚の将来を考える勉強会に参加しています。提供する料理は今まで通り考え抜いたものを出していきますが、いま使うべき魚と控えるべき魚があるということを考えながらメニューづくりすることも、料理人としての大事な役割だと感じています。

Al Pomodoro

ジビーフのミートボールのパスタ

日本人好みに仕上げる秘訣は具の味を生かすこと

温故知新。そんな言葉が使えるまでに、イタリア料理は日本の食文化に溶け込んできた。「1980年代から90年代にかけて、イタリア料理がキラキラしていた時代へのオマージュを表現していきたい」と言うのは、イタリアで3年間修業した後藤シェフだ。「パスタが主役のイタリア本国なら、ミートボールは煮込んで肉の味をソースに移し、リコッタ・サラータを削りかけて食べます。でも、具の味を楽しみたいのが日本人」。だからこそ、食材も滋賀の「サカエヤ」が手当てした、しっかりした身質でうま味が強い完全放牧牛、ジビーフを9ミリの超粗挽きで使い、煮込まない。大切なのは、飽きさせない味のコントラストとグラデーション。ミートボールを崩しながら食べることで、ラグーのようにもなり、日本人の好きなブッラータチーズとパスタを和えてサイドに置くことで、トマトとチーズの味のコントラストが楽しめ、混ぜながら食べることで異なった味のバランスが生まれる。

Loro Itariano

毛ガニのパスタ

具材の味を生かすソース使い

「料理を見たときに本能的に食べたい!と直球で思えるパスタに見えること」。日本人の好みを追求しながらも、イタリアを知る後藤シェフの軸はぶれない。「要素が多いのはイタリアっぽくない」から、タラゴンを飾りに散らすだけ。確かにイタリアだったら、カニの身をほぐしてパスタと炒め合わせる。でも、「具を食べるパスタ」だからこそ、毛ガニの殻とアサリの出汁を合わせ、炒めたニンニク、エシャロットを裏ごしして加え、ほんの少しトマトソースと生クリームを加えた手間暇かけたソースを作り、ごろんと大ぶりな毛ガニの身を引き立たせる。原型は、80年代後半に日本で流行したワタリガニのパスタ。誰もが好きな味を「見直す」「掘り下げる」ことで現代的にリバイバルしたひと皿になる。「イノベーティブにも挑戦したけれど、どこの国の料理かわからなくなってしまった」。だから、日本人である自らが日本で作るおいしさを追求する。イタリア料理は郷土料理だ、とよく言われる。地方に根ざした料理は、世界各地の「郷土」に根ざす力を持った料理でもあったのだ。

メログラーノ
東京都渋谷区広尾5-1-30 1F
TEL 03-6459-3625
昼12:00-13:30 LO 土曜、祝日のみ
夜17:30-22:00 LO
日曜休
https://melograno.jp/



text 馬渕信彦、仲山今日子 photo 堀清英、花村謙太朗

本記事は雑誌料理王国2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする