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一度は訪れたい。フランス料理史に名を刻む伝説の名店「ラ・ピラミッド」


[フランス・ヴィエンヌ] パトリック・アンリルーさん◉ラ・ピラミッド

フェルナン・ポワンの精神を引き継ぐ

ここでお客様が思い出を作る。
そこに僕の生きがいがある。

フランス料理史に名を刻む伝説のグランシェフは何人もいるが、19世紀末に生まれ、リヨン近郊の町ヴィエンヌにある「ラ・ピラミッド」のオーナーシェフとして、1933年から死ぬまでミシュランの三ツ星を守り続けたフェルナン・ポワンは、三指に入る存在だろう。今日ではむしろ当たり前になったテロワールに根ざす料理を、80年以上前に提唱・実践し、史上最高のシェフと賞賛され、この名店から、ポール・ボキューズやトロワグロ兄弟、アラン・シャペルなどが輩出した。今回「海外の注目のシェフ」に挙がったパトリック・アンリルーさんは、この歴史ある名店「ラ・ピラミッド」の現オーナーシェフである。

歴史的名店のシェフに、という要請に誰もが尻込みした

じつは、現在の「ラ・ピラミッド」は1989年に再スタートを切った。
55年にフェルナン・ポワンが58歳で死去、その後マダム・ポワンが31年にわたって三ツ星を維持したが、そのマダムも帰らぬ人となった。この美食の殿堂の灯をどう守るか――。

大切なのは好奇心、正直と誠実。
そこから湧き出る情熱はすべてを超える。

料理は基本的にコースになっており、現場は2006年からラ・ピラミッドのレストランに帰ってきたクリスチャン・ネ(MOF)シェフが取り仕切る。フォワグラやエスカルゴはもちろん、魚や仔羊などをおいしく食べさせてくれる。

さまざまなシェフに声がかけられた。けれど、ポワンの死後、その功績を称えて店の前の通りが「フェルナン・ポワン通り」と改名されるほどの「歴史的名店」である。あまりのプレッシャーに、シェフたちは誰も手を上げなかった。その後、ポワンの弟子であったボキューズやトロワグロが乗り出し、その強い推薦を受けて、当時30歳を過ぎたばかりのアンリルーさんが、89年に「ラ・ピラミッ
ド」のシェフに迎えられたのだった。「ポアンさんは『若者よ故郷に帰れ。
そしてその町の市場に行き、その町の人のために料理を作れ』という名言とともに記憶されている偉大なシェフです。でも、僕はポワンさんが亡くなった後に生まれているから、一緒に仕事ができたわけではない。ただ、ポワンさんの料理、料理人に対する考えは継承していると思います」

名匠フェルナン・ポアンの料理哲学は、「料理人は料理だけがすごければいい」という考えとは対極にあった。アンリルーさんは、このオーベルジュのシェフになった日から、「店で重要なのはチームワークと総合力。日々毎日、受付からサービス、料理まで、お客さまを幸せにするために、1ミリでも上を目指そう」と
言い続け、その方針を貫いてきたと言う。シェフとなった翌年にミシュラン一ツ星、92年に二ツ星を獲得。96年には『ゴー・エ・ミヨ』のシェフ・ド・ラネ(今年の料理人)に選ばれた。

いま食材としては野菜が大事。
でももっと大事なのは食べる歓び

オーナー会社の関係で経営危機におちいったこともあったが、夫妻で店を買い取り、正真正銘のオーナーシェフになって、その危機を乗り越えた。自分にも、一緒に仕事をするスタッフにも「2つ大事なことがある」とアンリルーさんは言う。
「ひとつはサヴォワール・フェール(職人技)。プロとして不可欠なものです。もうひとつは生き方というか、人間としてのあり方です」

人に何かを与えられるか、シェフとして人にどう指示が出せるか、人を引き連れてどうリーダーシップが発揮できるか。それは人間としてのあり方に関わることなのだ、と思う。

店の若い子にも、「何かをリスペクトをすること、自分の価値観を持つこと、ビジョンを持って遠くを見なさい」と言い続ける。

ローヌ河畔に佇む古代ローマからの街ヴィエンヌ。その街を象徴する「ピラミッド」と呼ばれる石造りの尖塔。その尖塔の傍らで、26年の歴史を刻んできたアンリルーさんのオーベルジュ「ラ・ピラミッド」。
晴天の日、そのフランス庭園のテラスで食べる料理は、単なる食の楽しみ以上の歓びを与えてくれる。
「料理人としては野菜という素材がいま一番大事。最も興味を持っています。現代人の健康、人の体の問題に繋がるものだから。だけどやはり、一番大事なのは食べる歓び。それは料理だけで作られるものではない」

ここでお客さまが思い出を作る。そこに僕の生きがいがある、とアンリルーさんは温かく微笑んだ。

ラ・ピラミッド
Restaurant de la Pyramide
14, boulevard Fernand Point 38200
Vienne, France
☎+33 (0)4 74 53 01 96
●コ ース132€~、
月、木、金の昼(祝日除く)のみの
特別コース64€あり
●火、水休
www.lapyramide.com

民輪めぐみ=取材、文 大澤 隆=撮影 大沢晴美=取材協力 

本記事は雑誌料理王国254号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は254号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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