京都の名店「フランス料理 ボルドー」のスペシャリテ。大溝隆夫さん


時代を超えて愛され続ける名匠のスペシャリテがある。
京都のフレンチの名店「ボルドー」のオーナーシェフ・大溝隆夫さんと、「オマール海老のロースト トリュフのソース」をご紹介します。

京都の繁華街からここ北区の「ボルドー」までは、車で30分弱かかります。金閣寺までは歩いて15分ほどです。私の母方は、この地で16代続いた京野菜を作る農家です。じつに力があり、みずみずしいその京野菜を使っています。ご覧の通り、このあたりは辺鄙な住宅地です。こんな場所に若造が一軒家のフランス料理店を開いても、足を運んでくださるお客さまがいるわけがない。そうです。独立したのは30歳のとき。若造だったんです。まわりからは、危惧する声ばかりが聞こえてきて、正直、私自身も不安でした。

でも、店をオープンする前にフランスで確信しました。パリで評判になっている店もありますが、片田舎の辺鄙な場所でも予約の取れない店は確実にある。人が集まるところに出店しなくても、心を込めて「私の料理」をお出しすれば、お客さまは足を運んでくださる。フランスでそう確信できていたんです。とはいえ、今から37年も前のこと。当時は、ガストロノミーなどといった言葉は根付いていませんでしたし、私はご近所の方が足を運んでくださる正統なフランス料理の店を出したかった。内心、不安を抱えながらのオープンでしたが、幸運にも予約が取れない、と言われるほどで、東京からも多くの方が視察にいらした。東京への出店も勧められましたが、この店だけを守ってきました。

息子とともに正統派のフレンチを守り続けたい


オープン当初は、オマール海老はもちろんのこと、ジビエや生ハーブといった食材がなかなか手に入らず苦労をしました。特にオマールはフランス料理の華ともいえる食材です。フランスのブルターニュやノルマンディー地方の「オマール・ブルー」と呼ばれる最高のものが入手できるようになるのに、何年もかかりました。そして、私のスペシャリテのひとつに、「オマール海老のロースト」が加わったのです。

オマール・ブルーは、青みが強く、味、香りは最高峰。私は25年間、このオマール・ブルーに対峙し、いかに美味に仕立てるか、いつも新鮮な気持ちで向き合っています。定番はトリュフの風味を効かせたソース。当初はフランスの濃厚なクレーム・ドゥーブルを使っていましたが、時代の要請と言いましょうか。ヘルシー志向とともに「軽さ」が意識されるようになったこともあり、現在は普通の生クリームを使っています。

料理はファッションですから、時代により、味の好みも変わります。とはいえ、王道はしっかりと守り、正統派のフランス料理を召し上がっていただきたい。油絵を描くことが好きですので、その感覚を盛り付けにも込めています。少年の頃からフランス料理が醸し出す華に魅了されていました。料理の味ももちろんのこと、食事とワインを楽しみ、人生そのものを謳歌するフランスの文化が大好きでした。その私が、料理人としてフランス文化の只中に身をおいている。このことを本当に有難く思っています。私の背中を見て育った息子は私と厨房に立ち、“戦友"のマダム(妻の美智代さん)は、サービスを担当しています。私は現在67歳ですが、これからも「大溝のフランス料理」を、ここ京都で作り続けていきます。

オマール海老のローストトリュフのソース
真っ赤なオマールの、何と美しい盛り付け。白いホワイトソースに散ったトリュフの黒。添えられたトマトのパピエは一筆で描いたような躍動感を見せ、姫ササゲのグリーンがアクセントになっている。一枚の絵画のように華麗で力強いひと皿は、まさしくフレンチの王道を伝える。そして、オマールの食感といい、ソースのまろやかさといい、至福の味わいが、口中で溶ける。

大溝隆夫 Takao Omizo
1947年、京都市に生まれる。京都のフランス料理の老舗で10年間勤務、その後フランスへ渡り研鑽を重ね1978年に「ボルドー」を開店。以後36年、京都の名店として名を馳せる。京都府「現代の名工」。フランス共和国農事功労賞シュヴァリエ受勲。厚生労働省「卓越した技能者」、国の「現代の名工」など、フランス料理界のトップシェフのひとりとして高い評価を得ている。

text 長瀬広子   photo 中西一朗

本記事は雑誌料理王国2014年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2014年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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