独自の「江戸中華」を目指す!ミシュラン1つ星「銀座やまの辺」


どんな料理をやりたいのか明確に
だから独自の「江戸中華」を目指す 

銀座やまの辺 江戸中華 山野辺 仁さん

18歳で天厨菜館グループに入り、「グランシェフになるまでは辞めない」と心に決め、それこそ追い回しからスタートした。「仕事はキツかったけれど、もともと料理は好きだったから、自分でいろいろと工夫しながら、一歩一歩階段を上っていくのは楽しくもありましたよ」と、山野辺仁さんは、今までを振り返る。シェフになって周りを見渡したら、10人いた同期で残っているのは自分ひとりだった。それくらい厳しい世界だったのだ。
独立志向は強かった。目標は35歳で独立。27歳で結婚したときには、妻に「とにかく1千万円貯めてくれ」と頼んだという。35歳になる少し前に、妻から「そろそろ貯まるよ」と言われ、18年間勤めた会社を辞めた。「妻にはいつも、感謝しています」

山野辺仁さんのクロニクル
1980年 群馬県に生まれる
1998年 町田調理師専門学校卒業 天厨菜館グループに入社。 新宿タカシマヤの「天厨菜館」に配属される。
2003年 「天厨菜館銀座本店」に異動。
2005年 「天厨菜館銀座本店」 料理長に就任。
2015年 独立「銀座やまの辺 江戸中華」を開業。

ポストが自分を変えてくれる
無駄なコストはカット

独立するにあたっては、いろいろな人に話を聞いた。「意見は十人十色。100人いれば、100人の独立があります。でも、すべての人に共通していたのは、『自分がどんな料理を出したいのか、どういうことをやりたいのかをはっきりさせること』『やり続けること』 のふたつでした」 出店する場所を銀座に絞ったのは、「ヒロソフィー」の山田宏巳シェフから、「お前のやりたいことを実現させる舞台は、銀座だと思うよ」 とアドバイスされたからだ。「与えられたポストが自分を変えてくれる」という山田さんの言葉にも、背中を押された。「ただ、家賃にあおられたくなかったので、小さな店を探しました」 たまたま山田シェフが、この場所に以前あった「日本橋 よし町」が6月27日で店を閉めるという話を聞きつけ、「橋渡しはするけれど、あとは自分でドンとぶつかってみろ」と言ってくれた。

「すぐにビルのオーナーのところへ行き、経歴書や雑誌に取り上げられた自分の記事などをまとめた資料を見せ、ぜひ貸して欲しいとお願いしました」「日本橋 よし町」の大将には、店舗だけではなく、その精神も受け継ぐと約束した。3カ月ほどアルバイトをして、「日本橋 よし町」の人気メニュー「蟹肉炒飯」や「天津麵」のつくり方も教えてもらった。それはいまや、「銀座やまの辺 江戸中華」 の人気料理のひとつだ。「お客さまも、炒飯を食べると『オッ』という顔をされますよ。いわゆる中華料理の炒飯とはひと味違う、焼き飯スタイルでどこか懐しい味がするからだと思います」 結局、会社を設立することで、銀行からは1500万円借りることができ、貯金は半分だけ開店資金として使うことにした。借金は、10年をメドに返済する予定だ。「お客さまに喜んでいただきたいの で、どうしても素材にはこだわってしまいます」

すべて見通せるオープンキッチン
お客さまの様子を常に見ることができるように、オープンキッチンに。カウンター席のお客さまとの会話も弾む。

開業データ
開業日 2015年8月21日
開業資金 2000万円
借入先 金融機関(1500万円)
資金内訳 キッチン200万円、内装600万円、備品・雑費・仕入れなど200万円、運転資金1000万円
スタッフ数 2名(アルバイト1名が入る場合も)
客単価 約15000円
面積 39.669m²
月商 200~250万円

結果、原価率は45パーセントに。「税理士さんには、『そんな原価率じゃもたないよ』と言われています」と苦笑するが、「自分のブランドを確立するためには、食材に執着することも大事だと思っている。宣伝だと思え」という「ラ・ベットラ・ダ・ オチアイ」の落合務シェフのアドバイスに勇気をもらい、今は原価率はあまり気にしないようにしている。「1カ月トータルで見て、赤字になっていなければいいかな、という感じですね」
 経験上、ランチは思うほど利益が上がらないことを知っていたため予約のみと決めた。価格も夜と同じだ。「夜に集中したかったんです」 昼も夜もやると、自分もスタッフもどんどん疲弊していく。「考える時間も必要だと思います。料理人は、アイディアの引き出しがなくなったらおしまいだから」山野辺さんは、そういう人を何人も見てきたのだ。 「目標は大きく、世界進出。アジアやヨーロッパの人たちに、〝日本で育まれた中華〞を楽しんでいただきたいと思っているんです」 行動力と考える力を武器に、江戸前食材を中心に日本の四季を中華で感じる「江戸中華」の確立を目指す。 山野辺さんの挑戦は、始まったばかりだ。

よだれ牛
「よだれ鶏」をやまの辺流にアレンジしたスペシャリテ。炭火で焼いた尾崎牛のシャクシとサッと炒めたピーマンの細切りに、甜醤油ベースの独自のタレをかけたひと皿。味は濃いがさらりとしたタレで牛肉の旨味が楽しめる。

text 山内章子 photo 星野泰孝

本記事は雑誌料理王国第261号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第261号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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