食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

「銀座小十」奥田透の仕入れ術7か条


5年連続三ツ星受賞の栄光にとどまらず、
挑み続ける料理人が辿り着いた仕入れ哲学とは。

でかいでかい、とにかくでかい!「銀座で小十」のお昼時。築地から、産地から、発泡スチロールに詰められた荷が宅配業者の手で続々と届けられる。若いスタッフがさっそく荷ほどき。「魚だけでも並べてみましょうか」と、なにやら不敵な笑みの奥田さん。かくして、カウンター前の板場にそれでも多少端折りつつも並べてみましたの図、である。

 この全長60センチはあろうかという千葉県大原産の艶々とした真鯛。「天然の魚はね、でっかくなきゃおいしくないんですよ。いろんな修羅場をくぐり抜けて大きくなってきたわけだから」。アスリートのように体格のいい魚の「生命力」をいただく。それが魚という食材に対する奥田さんの根本的な考え方だ。

奥田さんの食材仕入れルートは築地をベースに、修業先の徳島、自身の出身地である静岡ほか、特殊な食材はそれぞれの分野に強い産地の専門業者などへと徐々に広がっていき、現在では北海道から九州まで約40の多岐に及ぶ。「毎月の支払いだけで大変なんですよ」と苦笑いするが、経営者として、10人のスタッフを抱える親方として、けっして赤字は出さない。「いいものは高い」というのが信条だが、高額なアワビなども産地直送でとることでコストを下げることができる。こうして築地と産直をうまく使い分け、お客用に出せない部分はまかないに活用し、「料理人の使命として食材は完全に使いきります」。結果、細かい原価率計算はほとんどせずとも「身につけた感覚」で、食材原価率は毎月想定内の40%以下に収まっている。

 本来、料理人として築地に毎日足を運ぶべきとは思っているが、そのあたりの姿勢は現実に即して柔軟だ。「うちに関してはネタの仕入れが最重要である寿司屋ともまた違いますし、経営者として重要な経理もやらないといけない私には毎日の築地通いは不可能。その代わり、勝ちどきの寮に住む若い子たちの担当を決めて、築地をまわってもらっています」。実際、築地ではセリの段階で仲卸が魚の大きさや価格で料理店ごとに仕分けをし、すでにしめて神経を抜いた状態で用意している。だから、仲卸との信頼関係があれば、安定してベストな食材を仕入れることができる。

多額の借り入れをし、背水の陣で臨んだ2003年のオープン以来、幾多の〝修羅場〞をくぐり抜け、2007年にはミシュラン三ツ星を獲得。店もようやく軌道に乗り、昨年は、自らも板場に立つ「銀座奥田」もオープンした。「銀座小十」開店10年目となる2017年6月には、「銀座奥田」が入居するビルの4階に「銀座小十」を移転、店舗面積も現在の倍の40坪となる。その快進撃を成し遂げられたのも、食材業者との信頼関係に基づいたよきつきあいゆえだったと、奥田さんは振り返る。

三ツ星を獲得して以来、全国の生産者からオファーをもらったり、食材業者からの営業も確かに増えた。「私がその業者の食材を使うことによって、少しでも食業界の発展につながるのであればそれもまた大事。とはいえ、これまでつきあいのある業者さんを切るようなことは私は人間としてしたくない」。外食不況のこの時代、食材の値段を買いた叩くことは簡単だが、それはけっしてしない。よほどのことがないかぎり、届いた食材に対するクレームもつけない。「いい人かもしれませんね」と奥田さんは無邪気に笑う。

「商売にリズムができて余裕が出てくると、時代も変わっていくことに気づきます。産直やオーガニックといった流行りしかり、食のメディアから発信される最新の情報しかり。そうするとアンテナは高く、広く張り巡らせるようになりますよ」。知り合いの和食の料理人や寿司職人、フレンチのシェフが食材を紹介してくれることも。人と人とのつながりから、食材との新たな出会いが生まれていく。

 いずれはNYやパリ出店も視野に入れ、現地ではどんなローカル食材の入手が可能なのか、また日本からはどんな食材が入ってきているのかと虎視眈々と意欲を燃やす。「薄利多売、人間関係、業界の発展。そんないろんなことを考えてやっているのが私の食材仕入れです」。その食材哲学の向こうに、疾走するアスリートのような〝世界の奥田〞が見え隠れする。

奥田透の仕入れ術

  1. 築地だけが仕入れじゃない
  2. 産地との距離と届く時間は比例しない
  3. いい食材は高い
  4. 食材の値段は買いたたかない
  5. 取り引きは増えてもつきあいは切らず
  6. 経営者として赤字は出さない
  7. 支払期限までにきちんと支払う

関連記事


田村亮=構成/文 岡本寿=写真

本記事は雑誌料理王国第215号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第215号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする