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料理界の食いしん坊山田宏巳さんおすすめ「肉の旨い店」3選


「牛肉の旨い店」と問われて、さて、困った。旨い店はいくつも知っている。しかし、会員制だったり、予約がほとんど取れない店では、紹介しても食べに行くことができない。だから、あまり意味がない。予約は必要かもしれない、多少並ぶかもしれない。でも、誰もが旨い牛肉を食べることができる店という視点で考えを巡らせているうちに、ピンとひらめいた店があった。

ひとつは、中華料理の「マサズキッチン恵比寿」。伝統の技法を駆使し、洋のエッセンスも取り入れながら、自在な中国料理の世界を表現している店だ。二つ目は、25年以上六本木で看板を守り続けている牛肉専門店の「さんだ」だ。丁寧な仕事ぶりは、同じ料理人として頭が下がる。三つ目は、ステーキの名店「麤あら皮がわ」の流れをくむ「トロワフレーシュ」だ。

絶品「酢牛」。マサズキッチン恵比寿

酢牛
中国料理の味わいにフランス料理のテイストを纏(まと)わせたかのような「酢牛」。酸味とコクが強い黒酢が、ほどよく火入れされた牛肉にからまって、互いの味を引き立てる。

この店に行って、必ず注文するのが「酢豚」ならぬ「酢牛」だ。
じつはこの「酢牛」、2017年5月に北京で行われたサミットの晩餐会で出された料理だそうで、たまたま中国に行ったときに、食べるチャンスに恵まれた。
正直、ひと口食べた瞬間に「この手があったか!」と、思わずうなった。

豚の場合は火をしっかり入れなければいけないから、どうしても肉が硬くなってしまう。でも、牛肉の場合は、表面の衣はカリカリで、中の肉はふっくらやわらか。黒酢のこってりとしたソースとの相性も抜群だ。和牛のロースを使っているのではないかと、推測した。旨かった。

帰国してすぐに、「マサズキッチン」に行って、「酢牛をつくって」とシェフの鯰江真仁さんにお願いした。これがまた、旨い。シェフいわく、「黒酢の酢豚」の牛バージョンだそうだ。ソースも衣も酢豚と同じ。変えているのは、揚げ方だけ。なかに火が入り過ぎないように、サッと揚げて、一度寝かせて、また揚げる。

メニューにはないひと皿だが、一般のお客様でもつくってほしいと注文すれば、つくってくれるという。ただ、コース料理の一品として登場する日は、そう遠くないようだ。

マサズキッチン

MASA’S KITCHEN
マサズキッチン

東京都渋谷区恵比寿1-21-13
BPRレジデンス恵比寿B1F
1-21-13, Ebisu, Shibuya-ku,Tokyo
☎03-3473-0729
● 11:30~14:00LO 18:00~23:30(21:30LO)
●月休
●料金の目安は10000円~
●40席
www.masas-kitchen.com/

アイデアあふれるモツ料理「和牛料理さんだ」

さんだ
肉三昧のコース料理。まずは生の状態をゲストに見てもらい、適宜、その場で調理する。

こちらは、黒毛和牛のさまざまな部位のモツを、コース料理で楽しむことができる店だ。親方は、昔、牛のさばき方を学ぶために、品川の食肉センターで働いていたこともあるほどの料理人。その縁で、今もその日いちばんのモツを分けてもらえるのだという。

ギアラ
ギアラの内側にななめに隠し包丁を入れていくことで、硬くもなく柔らかくもない、ほどよい食感が保てる。

市場が開いているときは、スタッフが毎日買い付けに行く。店に帰ってくると、すぐに下処理。それぞれの部位に切り分け、汚れや血管はきれいに取り除く。この間、約2時間。スタッフは毎日、これを繰り返す。こうしたていねいな下処理が、ホルモン独特の臭みを取り去り、旨い料理へとつながっていく。

噛みやすく、食べやすくするために、ていねいに隠し包丁を入れるのも、この店の特徴。煮込みにも隠し包丁を入れているのは、ここぐらいではないか。
鮮度はもちろん、こうした労を厭わない仕事ぶりが、25年間、この店を支えているのだ、と僕は思う。

アキレス腱
アキレス腱を細切りにしてサッとボイルしたものを、ポン酢でいただく。途中でこうした食感も味わいも独特な料理が入ってくるのも、食べ飽きない秘密だろう。


また、親方はさまざまなジャンルの料理を経験しているので〝料理の引き出し〞が多い。これも、この店の魅力だ。とくに、牛のアキレス腱をふぐ料理のように提供するひと皿は、親方のオリジナル。コリコリとした食感は、まるでふぐを食べているかのようだ。コースで15〜16品出てくるが、食べ飽きない、食べ疲れない。それは、味だけではなく、食感も変えて出してくるからだろう。

さらに、締めのラーメンが心憎い。「ラーメンそのものがおいしくても意味はない。モツ料理の締めに食べたときにおいしいラーメンじゃないとダメ」という親方の言葉通り、牛タンのしゃぶしゃぶの出汁をスープにした締めのラーメンは、ほんとうにお腹に優しい。

ギアラ
遠赤外線の焼き台で焼くギアラ(4番目の胃袋)は、噛みごたえはあるが、決して硬くはない。これも、隠し包丁を入れていればこそだ。

以前、二ツ星レストランのスペイン人シェフを連れてこの店に来たら、「感動で鳥肌が立った」と言っていた。「モツは嫌い」と言っていた人が、この店のモツ料理を食べて、モツが好きになった、という話は、枚挙にいとまがない。

和牛料理の店だけに、狂牛病問題やレバー事件などで何度も痛手を受けたらしい。店に客が一人も来なくなったこともあったそうだ。そういう困難を乗り越えて、25年もの間、店を続けているのはすごいことだと思う。

Sanda
牛肉料理 さんだ

東京都港区六本木4-5-9
4-5-9, Roppongi, Minato-ku, Tokyo
☎03-3423-2020
●17:30~23:30(土曜は~23:00)
●日・祝休
●コース6000円(税別)
●30席
http://sanda.tokyo/

ふっくらステーキ。トロワフレーシュ

トロワフレーシュ 炭火ステーキ
きちんと火が入りつつも、内側は美しいピンク色。肉汁もしっかり内包して、ふんわりとしている。

最後は、「麤皮」の流れをくむ「トロワフレーシュ」だ。「麤皮」同様、オリジナルの煉瓦炉窯で焼き上げるが、焼き上がったステーキは、まさに「ふっくら」。火はきちんと入っているのだけれど、肉汁も旨味もすべて内包したかのよ
うなたたずまいで、口に入れると、その肉汁や旨味が口中にふわっと広がる。

良い牛肉をきちんと火入れすると、これほどおいしいステーキになるんだな、ということを分からせてくれる店だと思う。聞けば、紀州備長炭のなかでも最高級の「馬目上小丸」を使い、約800度まで上がった備長炭の直で焼き上げるため、表面はカリッと香ばしく、肉汁はしっかりと肉の塊のなかに閉じ込められるのだという。

トロワフレーシュ 炭火ステーキ
炭火ステーキに合う厳選された牛肉を用意し、さらさらと塩をふりかけて、すぐに高温の炭の上にのせる。シンプルだが、肉本来の旨味が味わえる。

味付けは、シンプルに塩だけ。大きな塊にカットされた肉の表面に、粉雪のように塩をふりかけ、すぐに高温になった炭の上へ置く。すると、焼き塩の効果で旨味を増した塩が、和牛のもつ旨味をさらに引き上げるのだという。

これぞ、ステーキの醍醐味。僕は、肉はやはり塊がおいしいと思っている。好みはきれいにサシが入った和牛。口中で肉汁を感じ、ふわっと旨味や香りが広がる牛肉が、やっぱり僕は好きだ。でも、それはステーキに限ったことではない。ど
んな調理方法であっても、肉そのものの旨味を感じたいと思う。

牛肉は奥深い。「酢牛」で驚かされたように、まだまだ料理の仕方はいろいろあるのかもしれない。旨い店に通って、僕もまた、勉強させてもらっている。

トロワフレーシュ_店舗

Trois Fleches
トロワフレーシュ

東京都中央区銀座8-2-8 銀座高本ビル2F
8-2-8, Ginza, Chuo-ku, Tokyo
☎03-3572-0003
●17:00~22:00
●日・祝休
●コース18000円
●18席            www.trois-fleches.com


山内章子=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国第281号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第281号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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