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ル・マンジュ・トゥー谷昇さんのベストシグニチャーディッシュ「オマール・オマール・オマール」


10年試行錯誤して辿り着いたルセット「オマール・オマール・オマール」

 自分が理想とする味に辿り着くために、どんなことをすればいいのかーー。

「ル・マンジュ・トゥー」のオーナーシェフ谷昇さんは、「論理的に考え、思いつくことを全部試していく」と語る。9年連続で二ツ星を獲得している気鋭の料理人だ。シグニチャーディッシュのひとつは「オマール・オマール・オマール」。オマールのソテーとムースリーヌを、オマールのソースでいただく、まさにオマールづくしのこのひと皿は、年ほど前に完成した。じつは、主役であるムースリーヌを自分の思い描くテクスチャーに仕上げるまでに、谷さんは年の歳月を費やしたのだ。

考えたあげく、逆転の発想が生んだなめらかなムースリーヌ

 フードプロセッサーでなく、手で裏漉ししてクネル(生地を混ぜて団子状にしたもの)を作っていた若い頃、ポール・ボキューズのレシピ本に載っているムースリーヌを見て、「作ってみたい!」と心が躍った。クネルにはない、なめらかな食感のムースリーヌへの憧れだった。フードプロセッサーを手に入れてムースリーヌが作れるようになると、今度は「どうすればもっとなめらかになるのか」と考え始めた。理想は、オマール、卵、生クリーム、バターの全てを同分量で作ること。けれど、バターや生クリームが多いと、どうしても分離をしてしまう。試行錯誤していたある日、パウンドケーキのカトル・カールからヒントを得て、それまでとは逆のやり方で作ればいいのでは、と思いついた。つまり、オマールのすり身の中にバターを入れるのではなく、バターの中にすり身を入れるのだ。

「到達点を決めて論理的に追求する。何となくやっていても、手仕事は進化しない」

 オマールのソテーは胴を縦半分に切り、殻を上にしてフライパンで蒸し焼きにする。オーブンで殻を乾かし、魚の出汁とブランデーなどを煮詰めて、ソースを仕上げる。

 時間が許す限り、舞台や絵画、建築などを鑑賞し、谷さんはあらゆるジャンルの本を読むために、今も眠る時間を削る。

「料理のことだけを考えていたらダメ。いろんなことに関心を持ち、それらを料理に結びつけて考える。自分から新しいものを生み出すための素養が必要なんです」

Noboru Tani

1951年東京生まれ。六本木「イル・ド・フランス」を経て、2度にわたり渡仏。アルザスの三ッ星「クロコディル」などで修業。六本木「オー・シザーブル」でシェフを務めた後、94年に「ル・マンジュ・トゥー」を開く。


名須川ミサコ=取材、文 中西一朗=撮影

本記事は雑誌料理王国第260号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第260号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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