牛肉を焼くためには欠かせない塩、コショウ。
肉質を見極め、何のために、どうして塩をふるのか。肉をおいしくする、その「流儀」について聞いた。
肉料理において、塩とコショウはなくてはならない存在だ。用途や料理法によってもそれぞれの役割は異なる。わずか少量でも味わいやバランスに変化が生じるため、ひとふりごとに大きな意味を持つと、「ル・マンジュ・トゥー」のシェフ、谷昇さんは言う。
谷さんが日常的に使っているのは伯方の塩の粗塩。これを煎り、3本の指でつまんだ際にちょうど2グラムになるようにカスタマイズしている。大きな塊肉を調理する際は、味が浸透するように前日から塩をふっておく。
一方、コショウはさまざまな原産国のものを用意。料理や食材との相性を考慮しながら、挽き方も変えて使い分け、無限の組み合わせを楽しんでいるという。
塩は、人間が生きるうえで必要不可欠であることは言うまでもない。血液やリンパ液などの人間の体液にはわずかに塩分が含まれており、浸透圧によって体内の水分量をコントロールしている。また、自然塩にはナトリウム以外にも、体内では作ることができない多種多様のミネラルが含まれている。
「火を使って料理をするようになる前は、人間は生肉を食べたり、家畜の血を飲んだりすることで、体内に必要な塩分やミネラルを摂取していた。だから人間が、血が滴るような赤い肉を欲するのは、DNAに組み込まれた本能なんじゃないかなと思うんです」
谷さんは、塩は下ごしらえや料理をしながら使うのみ。皿に盛り付けたあとでは塩をふらない。塩の尖った味ばかりが際立ち、すべてのバランスが崩れてしまうからである。「塩はすべての料理の根幹。単に味をつけるだけでなく、食材をやわらかくしたり、保存性を高めたりと、さまざまな役割もあります。だからどんな料理を作る時も、まず“この塩は何のためにふっているのか”を考える必要があるんです」
いつ、どのタイミングで、何のために使うのか。今一度、一つひとつの工程を振り返ってみたい。
塩が生命維持に欠かせない素材である一方で、「コショウはフレグランス。つまり、香りを楽しむもの」と谷さん。日本の家庭で手に入るコショウは限られているが、インドやインドネシア、カンボジアなど、世界各国で栽培されており、さまざまな品種が存在する。
谷さんは東南アジア産やマダガスカル産などの産地違いや、さまざまな品種のコショウを揃えて使い分けているという。
特徴的な香りを最大限に活かすために、高温での加熱は禁物だ。適度に熱を加えれば香りが立つが、過度に熱を加えると焦げて苦味が出てしまう。作る料理に合わせ、皿に盛り付けてから仕上げにふる、直接鍋に触れないようにふって香りを立たせるなど、工夫をしているのだという。また、コショウの表面積によって味わいや香りに変化が出るため、より繊細に表現するべく5段階で調整可能なペッパーミルを使用する。
「香辛料は文字どおり、“香り”と“辛さ”をどう料(はか)るかを料理人に委ねられている素材。香水にも好みがあるように、コショウの好みも大きく分かれます。まずは色々なコショウの個性を知って、自分好みの香り、味わいを持つコショウを見つけることですね」
ル・マンジュ・トゥー
Le Mange-Tout
東京都新宿区納戸町22
03-3268-5911
● 18:30~21:00LO
● 日休(祝は営業)
● 14席
www.le-mange-tout.com
河西みのり=取材、文 林輝彦=撮影
本記事は雑誌料理王国第268号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第268号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。