「サーモンアンドトラウト」が提案する  日本酒+αの新たなペアリング


「ペアリングはトライアンドエラーの先にしかありません」
「サーモン&トラウト」オーナー、柿崎至恩さんが提案するペアリングは、その奇抜さから一見思いつきのように映る。
だが、そこには、あらゆるお酒の、銘柄毎による無数の組み合わせを試したからこそ得られる感動があった。

SAKE PAIRING /カヴィストの到達点

「サモトラ」が提案する日本酒+αの新たなペアリング

造り手への敬意や配慮。飲みものや食材の情報収集力。顎を上げずに液体がゆっくり口に運べる器選びや丁寧な注ぎ方。その日の天候や顧客の体調や気分や好み、食べるペースや食べ方に寄り添った微細な温度管理や提供のタイミング。こうして数え上げればキリがないが、柿崎さんが心がけているこうしたひとつ一つこそが、ペアリングを語る以前に大切なことだと思うので、綴っておくことにする。

「つい最近発行された有名な自然派ワインとマリアージュについて書かれた本を読んでみても、昔から言われていることと、ほとんど変わらないんですよね。そしてそれを実際やってみてもおいしいとは限らない。要するに、体系的にマリアージュ=ペアリングを語るのはとても難しいと思うんですよ」。確かに肉と言っても豚と鳥と牛で異なるし、牛と言っても近江牛と紫波牛でその味わいは大きく異なる。こうしたなかで彼が説くのは飽くまでも実践であり、トライアンドエラーの繰り返しだ。

「今回作ったサモティーニも、料理に合う日本酒のタイプをいくつか定めて、その日本酒毎に相性の良いジンが違うことに気づき、最良の組み合わせを見つけました」。日本酒とジン単体は、産地や造りからある程度類推できるだろうし絞り込めるとしても、それぞれを実際組み合わせてカクテルにしたときの完成度は作らないとわからない。さらにそれを、料理と合わせて相性を確かめないとマリアージュが成立しているかもわからない。

そして組み合わせが決まってからも、提供する前に必ず味見をして、日本酒のアルコールを強く感じれば加水し角をとるなどの微調整を怠らない。「心がけているポイントは、基本的に同じ要素を持つものを選びながらも、少しだけずらすことで料理を引き上げるイメージ」と言うが、狙い通りのこうした味わいを生み出すまでの積み重ねこそが、サモトラのペアリング。難しくも楽しい挑戦なのだ。

牡蠣と発酵白菜のスープ
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サモティーニ

(久礼 純米あらばしり×フォー・ピラーズ ネイビー・ストレングス ジン)

柚子と昆布を加え乳酸発酵させた白菜と宮城県産牡蠣に火を入れ、井上醤油の白味噌を加えてミキサーで回したスープは、コースのスタートには似つかわしくない程に濃厚で重たく、複雑な味わい。そこに合わせたのがこの日本酒とジンを使ったサモティーニ。知人がNZのソーヴィニヨン・ブランとジンを合わせたキウイティーニというカクテルを教えてくれ、それをアレンジしたそうだが、これがお見事。

濃厚で厚みのある重心の低い味わいの日本酒を、少し加水してアルコールの角をなくして丸くし、爽やかで抜けの良いジンを加えたこのカクテルとスープを合わせると、牡蠣の旨みだけでなく発酵白菜の酸と野菜の爽やかさが顔を出し、軽やかさすら感じる。

ボラの刺身のサラダ仕立て
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八塩折酒 古代仕込 H25BY(木次酒造)
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SP68 2017 オッキピンティ

鳴門沖産のうま味がのってきたボラの刺身に、とんぶり、鰹の卵巣、塩麹で作ったソースを乗せ、ホワイトセロリでサラダ仕立てに。かわはぎ肝醤油に変わる何かをと作った料理は、ボラのクセを感じさせつつ、厚みのある味わい。ここにまず、木次酒造が佐香錦と稗、粟、黍、麦を発酵させて古代の八塩折酒(やしおりのさけ)をオマージュして造った日本酒を合わせる。

複雑なうま味と粘性、そして穀物の甘さとうま味みが結びつき、奥行きと落ち着きが生まれる。そこへ更にオッキピンティのSP68 を口に含むと、モスカートの凛とした上品さとアルバネッロの厚みのある味わいが一気にうま味を広げてくれる。1+1が5になり、さらに1を足すと10になるのだ。

オーナーカヴィスト柿崎至恩さん(左)と、シェフの中村拓登さん(右)。「和ベースの料理をなるべくそのまま生かし、既存の概念に囚われないマリアージュを提案していくことでサモトラらしさを感じられるようにしたい」と柿崎さんが言えば、「ボクの料理が飲みもので引き上げられて、こんなおいしさになるんだという愉しさがあります」と語る中村シェフ。こうしたポジティブな関係がサモトラのおいしさの秘訣。

サーモンアンドトラウト
東京都世田谷区代沢4-42-7-101 TEL 080-4816-1831
18:00 ~24:00LO
21:00以降アラカルトOK


text 小田祐規 photo きくちよしみ

本記事は雑誌料理王国2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年1月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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