お酒って厄介な存在と同時に強い味方でもある。飲みすぎる人がいれば場の空気は悪くなるし、料理の味もわからなくなる。お店の品も悪くなるし、料理人としてはまったくメリットがない。客単価が上がるなんてメリットはあるかもしれないけれど、せっかくしつらえた空間、丹精込めて作った料理が台無しになるのってどうなんだろう。
でも、酒がもたらす豊かな時間は、あなたの料理やサービスと手を取り合ってより極上の世界に連れて行ってくれるし、こうした文化を知っている上客をあなたのテーブルに呼び込むことにもなる。
いつでもどこでも泥酔するような酔客ではなく、お酒との豊かな時間を楽しめる、あなたの料理と空間にふさわしい人たちに来ていただくために今できること。それはあなた自身が上客のようにお酒を楽しみ、文化や粋(いき)を知ることでしょう。そして、世界のワインや酒のトレンドを知ることは、同時に料理や、よりよいサービスにおいても世界の今を知ることになるでしょう。最初は暗号のような難解な言葉や、経験がなくてピンとこない常識もあることでしょうが、それに出会うことは一つのより良い成長痛。少しずつ少しずつ、酒の世界を知ってください。
赤ちょうちんからレッドカーペットまで。このコラムでは、シャンパーニュ専門WEBマガジンの編集長であり、ワイン専門誌に寄稿、ワイン学校の講師を務めながら、一方で、全国のローカル酒場を巡り地元の酒と肴の世界を伝えている僕が、若い世代の料理人、サービススタッフのあなたに向けて、これからの素敵な食の場を創っていただきたいという思いを込めて、これから、いろいろな角度から酒の世界のあれこれをお伝えします。
実は僕はこのコラムのタイトルでもある23歳のころ一度、酒が嫌いになったことがありました。その理由や顛末などのお話はまた改めて書きたいと思いますが、こうした経験を踏まえながら、このコラムを通じて、「酒を知ることは食に関わる自分のためになる」ということを感じていただけますように。
伝統は大切にするけれど、凝り固まった常識にとらわれない。昔の成功体験から得られるものはあるけれど、それを押し付けてくる力に対して「僕たちがしたいことはそうではない」「私が目指すものはそこではない」と言えるように、今、起こっていること、今の時代に生まれていることをしっかりとらえておくこと。
それは酒だけはなく料理も店づくりも一緒のはず。店舗を持たないシェフ、ポップアップで季節ごとにガラリと世界を変えるダイニング、相席の大きなテーブルがひとつだけあるバー、誰かの家、寿司職人が開いたラーメン店、あえて山奥へと進むフレンチ、美容室とカフェや本屋とビアバーの複合店、バスクの伝統料理と日本酒、中国東北地方の料理と自然派ワイン…。振り返れば、料理の世界も、技術、融合、業態など常識破りの革新があればこそ、その伝統は守られてきました。こうした文脈で、酒の基本的なことを、今の時代に沿った形でお伝えしていきます。
ということで次回予告。「ワインの常識を疑え」、でお会いしましょう。
※あわせてプロフェッショナル向けに、今、酒の世界で起きていることをお伝えする僕のコラム「ワインと酒を巡る冒険」もご覧ください。
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プロフィール
岩瀬 大二
Daiji Iwase
ライター/酒旅ナビゲーター/MC
国内外2,000人以上のインタビューを通して行きついたのは、「すべての人生がロードムーヴィーでロックアルバム」。「お酒の向こう側の物語」「酒のある場での心地よいドラマ作り」を探求。シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。シャンパーニュ騎士団認定オフィシエ。「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。ワインや酒に関する記事を専門誌、WEBマガジンにて執筆。MC/DJとして多数のイベントに出演。
当WEBにて、コラム:酒とワインの幸せを体感する場所と時間「ワインと酒を巡る冒険」も連載。