パンに限らず、ケーキなどでも、はさんだものはサンドイッチ。
日本では、サンドイッチを略して、○○サンドと表現されますよね。
これ、アルファベット表記にするとどうなるでしょう。
よく見るのがsand。
んっ? 違和感がありませんか?
そうなんです、sandだと砂を連想してしまいますよね。
それが英語の感覚です。
sand cakeというケーキがイギリスにあります。
ザラッとした食感が砂を思わせるから、sand cakeです。
何かをはさんだサンドイッチ状のケーキではないんです。
ちなみに、このザラッとした食感は、粉に米粉やコーンスターチを使うなどして作り出しています。
なかには、ぼろぼろこぼれるほどのものもあり、まさに砂ですね。
ザクザク食感のフランスのビスケットにサブレ(sablé)があります。
名前の由来は諸説ありますが、そのひとつがsablerを語源とするもの。
sabléは、「砂をまく」「砂で覆う」という意味をもつ動詞の過去分詞で、サブレの食感が砂が崩れるようだから、sabléと名づけられたとされます。
イギリスを代表するケーキにヴィクトリア・サンドイッチ(・ケーキ)(Victoria sandwich (cake))があります。
パウンドケーキやカトルカール同様、粉、砂糖、バター、卵が同比率のケーキで、間にラズベリージャムやバターリームなどをはさみます。
ジャムやクリームをはさむので、サンドイッチ(sandwich)と命名されていますが、 サンド(sand)とは略しません。
そうなんです、英語でサンドイッチを表現する場合は、略さずにsandwichとします。これ、鉄則です。
とはいえ、例外もあります。
2010年代後半から、イギリスではカツカレーやカツサンドが知られるようになりました。
欧米から日本に入ってきて、独自の発達をして洋食となった食べ物が、今度はイギリスに渡る、というのはなかなか興味深い現象です。
それでは、カツサンドは英語でどう表記されているか、というと、そのままkatsu sandoなんです。
ここで注目したいのは、サンドをsandoとしていること。sandじゃないんですよね。
そのまま表現することで、日本らしさをアピールする意味もありつつ、かといってsandだと具合が悪い。
また、日本のサンドを発音に倣って表記するとsandoとなる、というのが理由でしょう。
とはいえ、これは稀なケースです。
サンドイッチを英語で表現する場合は、略さずにsandwichとしましょう。
文=羽根則子
食のダイレクター/編集者/ライター、イギリスの食研究家。出版、広告、ウェブメデイアで、文化やレシピ、技術、経営など幅広い面から食の企画、構成、編集、執筆を手がける。イギリスの食のエキスパートとして情報提供、寄稿、出演、登壇すること多数。自著に、誠文堂新光社『増補改訂 イギリス菓子図鑑』など。