食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

本当の「京風」とは?確固たる格調が備わった3品


十代、十五代、創業百年、百五十年を超える立派な老舗が軒を連ねる京都において、私で三代を数えます浜作は、近頃やっと老舗の仲間入りをさせていただいたようなもので、日本最初の板前割烹として昭和が始まると同じく産声を上げ、まだ九十年を数えるだけの、京都では、云わば新参者でございます。

 それまで高級料理は、あらかじめ料理場で作ったものを別空間である御座敷でお客様にお召し上がりいただくという、所謂「料亭」しかない時代に、創業者である私の祖父・森川栄が調理過程をお客様の目の前で全て御覧に入れ、そのままカウンターで出来上がりをお召し上がりいただくという、今日ではスタンダードとなり得ました「板前割烹」を創案いたしました。

 保守的な京都においては、まさしく大阪からの殴り込みのようなもので、その斬新なスタイルは画期的な料理業態の一大革命であったと思います。二代目である私の父も私自身も、祇園町生まれの祇園町育ちとして生粋の京都人を気取ってはおりますが、実は我が浜作のオリジンは大阪の船場にございます。全国各地の繁華街に「○○銀座」が点在いたしますように、近頃「京風フレンチ、イタリアン」「京風ラーメン」「京風スイーツ」など何かにつけて冠に「京風」を掲げる摩訶不思議な品々が横行いたしております。そのオリジンのせいか、私は所謂「京風」なるものを常に斜めからの目線(懐疑的客観性)で見てまいりました。即ち「京風、京風と言うけれど、一体何が京風なのか」という、京都で商売をする者にとっては全くもって重大かつ素朴な疑問を持ち続けていたということであります。

 皆様が「京風」について抱かれる第一のイメージは、まず「雅やか」「お上品」、お料理について言えば「薄味」「見た目の彩りが綺麗」等々と言ったところではないでしょうか。これらは、始めは実体があってそれに伴うイメージが構築されたものであったでしょうが、現在ではその「京風」というイメージに基づいて新たなる商品を考案・開発する=実体が生まれるという、全く真逆の方程式となっております。

 お料理や食べ物というものは、その土地のまず空気、水、素材、作り手、全てが密接に関係して初めてその風土色と申しますか、土地柄と申しますか、自ずからその存在を示す色合いを放つものであります。従ってここでは、前者である正統なる「京風」を三つのジャンルで代表する逸品をご紹介いたします。

 世界各国、その時々の権力のヒエラルキー無くしては、豊潤なる文化の形成は決して成し得なかったものであります。我が国では勿論そのヒエラルキーの頂点にありましたのが皇室であります。数々の和菓子の名店が覇を競う京都でも「川端道喜」さんだけは誠に別格であり、禁裏御用を司られて五百年、今でも京都御所には「道喜門」という専用の通用門が残されているくらい、皇室とは長い信頼関係を築いてこられました。その粽の製法は一子相伝、ガラパゴス諸島のように、「京風」の遺伝子をまさに純粋培養なさって、今日までその正統なる実体を伝えられております。

 次は、寺町二条「村上開新堂」さんのみかんのゼリー「好事福盧」でございます。明治維新の遷都により、都が東京へ移ってしまいました。その代りに文明開化により京都にも西洋化の波が押し寄せ、意外にも新しいもの好きで、進取の精神を持ち合わせております京都の町には、全国に先駆け、西洋料理店や西洋菓子店が現れました。その嚆矢と言えるのが「村上開新堂」さんであります。如何にも明治を思わせる店構えとともに、根底に京都の菓子文化を感じさせる、本来の和洋折衷の結晶とも言えますものがこのゼリーでございましょう。
 寺社と共に明治以降その文化を形成するピラミッドの頂点となっておりますのが、お茶の三千家さんでございます。「千家十職」をはじめ、各お家元のお出入りとなりますことは、その道を歩みます者といたしまして最高の格式と名誉を誇るものであります。

 三つめは、その裏千家さんのお出入りである「辻留」さんの折詰弁当でございます。言うまでもなく、きっちりとお仕事をされた季節の肴はセンス良く盛り付けられ、その端正な佇まいは一つの押し付けもなく、心地よい満足感に溢れております。

 この三品のような域に達しますと、味が薄いだとか量がどうだとか、そういった通俗の価値観を一切寄せ付けない、確固たる格調が具わっております。この三品が共有する研ぎ澄まされた「淡味清麗」な味こそ、元来、後々の現在に至るまで「京風」なるものをイメージさせるエッセンス(精髄)ではなかろうかと私は思っております。

 前回はコルトレーンの「My Favorite Things」を取り上げましたが、実は私はジャズにも増してクラシック音楽狂いでございます。この三品を音楽に譬えますと、まず念頭に浮かびますのが、モーツァルトのピアノ協奏曲第二十番第二楽章のあの有名な第一主題でございます。澱みなく、決して枯れることのない、かと言って急ぐわけでもなく、悠々滔々たる流れを保ち続ける清流のようなこの旋律は、あくどい作為や刺激とは全く無縁のものであり、正に味覚の上ではこの三品こそ、その完成度を共有するものであります。要するに『草枕』の冒頭で夏目漱石が嘆息しているように、我われ俗人は連日の煩雑な生活において一服の清涼剤としてこういうものに出会う時、初めて心洗われるという実感を持つものであります。

川端道喜
KAWABATA-DOUKI

京都市左京区下鴨南野々神町2-12
075-781-8117
● 9:30~17:30
● 水休

村上開新堂
MURAKAMI KAISHINDO

京都市中京区寺町通二条上ル東側
075-231-1058
● 10:00~18:00
● 日・祝・第3月休

辻留
TUJITOME

京都市東山区三条通大橋東入三町目16
075-771-1718

Hiroyuki Morikawa
1962年生まれ。京都・祇園の板前割烹「京ぎをん 浜作」の3代目主人。「浜作」は日本最初の割烹料理店で、料亭が主流だった昭和初期に、祖父・森川栄が創業した。川端康成を「古都の味 日本の味 浜作」と嘆息させた。

京ぎをん 浜作
京都市東山区祇園八坂鳥居前下ル下河原498
075-561-0330
● 12:00~14:00、17:00~
● 水休


Illustration by Michihico Sato

本記事は雑誌料理王国第248号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第248号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする