今さら聞けない食の基礎知識!精進料理とは?


この世のすべての命に感謝して、それを無駄なく上手に使い切る

京都市右京区にある臨済宗妙心寺の塔頭寺院、東林院は沙羅双樹の寺として知られる。6月から7月、十数本ある沙羅の林は白い花をつけて訪れる人を和ませる。また東林院は、精進料理作りが体験できる寺としても有名だ。

住職の西川玄房さんは、この料理教室を始めて15年。毎月変わる献立を目当てに、日本各地から通い続けるファンも少なくない。人気の秘密はわかりやすい指導と住職の気さくな人柄。小柄ながらよく通る声、そして「精進料理は、誰にでもできる料理です」といって客人を迎えるその笑顔である。

精進料理 東林院 西川玄房さん
Genbou Nishikawa
1939年、岐阜県生まれ。瑞龍寺専門道場(岐阜県)で5年間修行し、この間に老師に仕えて精進料理を学ぶ。66年に妙心寺塔頭東林院副住職に就任し、84年より住職を務める。『禅寺のおばんざい』(女子栄養大学出版部)、『キッチンでつくる精進料理』(淡交社)、『精進料理でつくるデザートおやつ』(淡交社)など、著書多数。

和食の原型は、法要の際に振舞われた精進料理

「ここで作るのはお寺のおばんざいのようなもの」と西川さんは言う。だから、静かな環境の中で一夜の泊りと、健全な食事を楽しんでほしいと願う。

「禅宗では、料理を作ることも食べることも"修行"と定めていますが、難しく考えなくてもいいですよ。旬の食材を使って用意した料理を通して、命を生かし切ることを学んだり、それに気づいたりしてくだされば充分です」

命を生かし切るとは、どういうことなのだろうか。

「私たちは自分の命をつなぐために、他の動物や植物の命をいただかなければなりません。殺生はいけないからといって、では野菜や果物だけをいただけば殺生していないことになるのかといえば、そうではありません。植物にも命があるからです。動物の命も植物の命も重さは同じ。せっかくいただくのですから、感謝して無駄なく生かし切ることが大切なのです」

精進料理 _大根
縁側に干したダイコンはタクアン漬けにする。古くなったタクアンは塩抜きをして油で炒め、薄味に仕立てたら「、ぜいたく煮」と呼ばれる精進料理のひと品に。

住職が案内してくれたのは寺の裏手の畑。ネギ、ニンジン、ダイコン、ミズナなどが収穫期を迎え、畑に通じる道のわずかなスペースにも、玉ネギやアスパラガスなどの野菜が植えられている。ユズもたわわに実る。

庭にはクチナシが黄色い実をつける。
「精進料理は、和食の原点ではないかと思います。武士階級の寄進によって建立された禅寺では、 年回法要の際に精進料理が振舞われましたが、法要に訪れた人の中には、料理人や料理好きの人もいて、徐々に暮らしに浸透していったのでしょう」

季節や食材だけでなく、気候風土を含む自然すべてを生かし切ることが精進料理。西川さんには、 忘れられない思い出がある。岐阜県の農村の寺に生まれ育った西川さんは、子どもの頃、毎年1月15日の「小豆粥の日」になると、朝早くから寺の周りの木々の枝と枝の間に、小豆粥を少量ずつのせて供えるように命じられた。

精進料理 _ゴマすり
畑からとりたての菜の花を使って、ゴマ和えを作る。自然の営み、大地の恵み、もののありがたさに感謝しつつ、ゆっくりとゴマを擂る。

「母からは、『感謝の気持ちを込めるのですよ』と教えられたのですが、その本当の意味がわかったのは後になってから」。植物や大地、自然、そしてそれを包み込むお釈迦様への感謝を忘れるな、 ということだった。「すなわちこれこそが、命に感謝して、それを使い切るという精進料理の基本なのです」。

それは自分の命をも大切に使い切ること。幸せに、よりよく生きることでもある、と西川さんは精進料理を通して説いているのである。

精進料理 _東林院
1月「小豆粥で初春を祝う会」、6月「沙羅の花を愛でる会」、10月「梵燈のあかりに親しむ会」の時は特別拝観可能。

東林院
tourinin

京都府京都市右京区花園妙心寺町59
☎075-463-1334
● 精進料理体験 (簡単な精進料理を2、3品作って試食)
● 毎週火・金 10:00~13:00
● 参加費 3000円(税別)(材料、テキスト、住職手作りの精進 料理付き) 宿坊は1泊2食付き6000円(税別)

上村久留美=取材、文 高嶋克郎=撮影                 

本記事は雑誌料理王国第234号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第234号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。



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