2024年12月18日
ニューヨークのレストランシーンを沸かせる女性シェフといえば、元「Cosme」のダニエラ・ソト=イン、「Aquavit」のエマ・ベントソン、「Lilia」のミッシー・ロビンソンらの名前が挙がるが、もう一人、覚えておくべきシェフがいる。ヴィクトリア・ブレイミーだ。チリ出身のブレイミーは「Mugaritz」でスタージュをするや、フルタイムのポジションをオファーされた実力の持ち主。ニューヨークでは「Corton」、「Atera」といったファインダイニングで修行を積み、歴史的名店「Chumley’s」や「Gotham Bar & Grill」の成功で、頭角を現した。
そのブレイミーが、ようやく自身のレストランをオープンさせた。「Mena」は、明るく現代的な趣の店だ。ジェンダーレスが進む今、男性・女性らしいという表現はナンセンスになりつつあるが、ブレイミーが描く空間は紛れもなくフェミニンな印象。かつて働いてきた店と180度異なるだけに、彼女がいかにタフな道を潜り抜けてきたのかが伝わる。
もちろん、料理にもブレイミーらしさがありありと反映されている。4コース125ドルのメニューは、母国チリの食文化へのオマージュだ。吊るし乾燥させたムール貝の燻製など、現代は失われてしまったチリの歴史的技法を今に蘇らせ、新たな料理として紹介するほか、クラム、アンコウなど海鮮を用いた南米の豊かな食でお客を魅了する。また、チョコレートガナッシュに海藻で香り付けしたり、昆布でトフィーを作ったりと、デザートにも大胆な趣向が光る。南米のエッセンスという独自路線で新風を巻き起こすヴィクトリア・ブレイミーは、間違いなく今年の顔になるはずだ。
text:Yumi Komatsu photo:Daniel Krieger