安土桃山年間に創業した、京都でもひと際老舗の料亭「山ばな平八茶屋」。21代目の園部晋吾さんは、430余年ののれんと、名代「麦飯とろろ汁」の味を守りながらも、料理に自身の個性を表現する改革派だ。
今回のテーマである豚肉は、園部さんにとって、あまり扱い慣れない食材。それでも、和食として一般的な生姜焼きや角煮ではなく「これまでにない仕立てで提供しよう」と、新たな料理を考案してくれた。
ヒントにしたのは、金沢周辺の鶏料理の治部煮。とん汁からも発想して、豚と根菜を合わせ、そば店とは違う京料理らしいだしを引いて……と、アレンジした創作そばは、チャレンジ精神と細やかなテクニックに満ちた、園部さんらしいひと品だ。
メインの「ひごさかえ肥皇」については、「脂の甘さと肉のやわらかさが格調高いですね。部位ごとにおいしさがありますが、特に豚らしい香りを感じたのはモモ肉です」と、園部さん。やわらかい豚とはいえ、モモ肉となれば歯ごたえもある。「洋食では低温調理が普及していますが、和食ではまだまだ。とにかく柔らかくすることを重視しました」
まずは両面に、細かい隠し包丁を入れてゆく。次に舌触りをよくするために片栗粉をまぶし、だしと調味料を合わせた湯がき地(汁)でさっとゆでる。さりげない中に、和食の知恵と技法がちりばめられている。
全体のベースとなるのは、もちろんだし。園部さんは、2年間蔵囲いにした利尻昆布を使用する。
「先ほど小霜(浩之)シェフは昆布を60度で煮出しておられました。うちの井戸水の場合、60度では風味不足なので、65度で1時間煮出し、沸騰直前まで温度を上げてから取り出します」。その後、カツオ節を入れて30秒。それが一番だしとなる。
豚肉と野菜は、それぞれ違う配合の地で火を通す。料理と素材によって地を変えるのは、和食の特性だ。
ツルリ、ふわりとほどけるような豚肉は味わい深く、ゴボウやニンジンのシャキシャキ感と土の香りに合う。そばの喉越しとともに、吸い地のように品のいいそば地が、全体をまとめる。それぞれに繊細な配慮を施して、椀の中でひとつになるよう、綿密に計算されているのだ。
椀物は和食の基本にして、華。いかに創作しても、最後まで飲み干した余韻は正直だ。凛とした風格が、料理人の腕を語っている。
伝統的な和食の技を活かした細やかな下ごしらえが肝
別々の地でゆであげた、やわらかいひごさかえ肥皇のモモ肉と、シャキッと仕上がったニンジンやゴボウ、そばを合わせた、椀もののような一品。一般の治部煮やそばよりも調味料を控えて、だしを利かせた味わいが京料理らしい。
ひごさかえ肥皇モモ肉…200ℊ/細ゴボウ…1本/ニンジン…1/4本/シイタケ…4枚/壬生菜…1/5束/そば…4束/おろしショウガ、カタクリ粉、塩…各少々
豚肉湯がき地
二番だし…390㏄/淡口醤油…30㏄/みりん…30㏄/葛…少々
野菜地
二番だし…300㏄/淡口醤油…25㏄/みりん…20㏄
そば地
一番だし…1040㏄/淡口醤油…80㏄/みりん…80㏄
Shingo Sonobe
1970年京都府生まれ。創業から約430年、若狭街道の茶屋として創業した京都の料亭「山ばな 平八茶屋」の21代目若主人。大学卒業後、大阪の料亭「花外楼」で3年間修業を積む。2010年に代表取締役となる。日本料理アカデミー地域食育委員長としても活動。
藤田アキ=取材、文
本記事は雑誌料理王国2014年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年9月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。