「旬」とは何か?「美山荘」中東久人さん


旬の食材を大切にして自然を感得する日本人の精神

「旬」とは、何かーー。京都・花脊の料理旅館「美山荘」の四代目主人、中東久人さんは、摘草料理について聞くと、そう語り始めた。

「その時期にたくさん採れるもの、一番おいしい時期、などという受け取り方もありますが、旬とは、『人間にとって必要なもの』ということだと、私は思っています」

冬の間に動きが鈍り、老廃物を溜め込んだ私たちは、春の山菜や野草を食べることで、老廃物を体外へ流し、デトックスの効果を得る。夏には体を冷やす効果のある夏野菜、秋には、冬籠りをするための脂肪を蓄積するために、木の実や果実がたわわに実る。そして、冬には体を温める根菜類が旬を迎える。

「日本人には、自然を感得するという精神があります。自然を直接的に表現するのではなく、自然の概念を表現する。それが日本料理の原点ではないかと思います」

そう語る中東さんには、春の摘草の灰汁の取り方や味付け、色の出し方などを聞いた。日本固有の食材に注目が集まる今、和洋を問わず多くの料理人のヒントになるだろう。

Seri − 芹 −

POINT 芹の種類

芹(セリ)にはいくつか種類があります。よく知られているのは「水芹(ミズゼリ)」。それよりも繊維が少ないのでやわらく、香りも強いのが「田芹(タゼリ)」です。香り成分は水に溶け出してしまうので、食べる直前に生で使うこと。このご飯でも、炊きあがってから田芹を加えています。

【レシピ】芹の香りの鱒ご飯

材料

芹…30g
米…1合(150g)/出汁…220g /塩…0.5g /淡口醤油…8g /みりん…5g
鱒…60g /塩…1g程

作り方

  1. 出汁、淡口醤油、塩、みりんを合わせてご飯地を作る。
  2. 鱒に塩を当て、しばらく置き、焼いておく。
  3. 米を研ぎ、水気を切り、1の地をあわせ60分ほど浸水させておく。
  4. 3に、2を加え、火にかけご飯を炊く。
  5. 芹を刻んでおく。
  6. 4が炊きあがったら、 5の芹を加えよく混ぜ合わせる。

Warabi − 蕨 −

POINT 薄味

摘草を使う場合、お出汁を入れなくていいものと、入れるものがあります。さらに、昆布出汁にするか、カツオを加えるかも考えます。ただし、出汁を入れると出汁の味になってしまうので、「蕨(ワラビ)」のようにキリッとした野草は、出汁を入れず、淡口醤油とみりんを少しだけ入れて絡ませておきます。必要以上に調理しないことも日本料理の基本です。

【レシピ】蕨の磯部揚げ

材料

蕨…500g(約60本)/重曹…10g /水…2000g
※実際に使用する4人前の量…8本
淡口醤油…3g /みりん…1g
海苔…1/2枚/オブラート…適量/小麦粉…10g /水…15g揚げ油、山葵…適量

作り方

  1. 水と重曹を合わせ、沸騰させ、蕨を加え、80℃くらいまで温度が上がったら蓋をしないで、火を止め放置しておく。
  2. 1の蕨をよく晒し洗い、一度沸騰したお湯にくぐらせ、おか上げし、淡口醤油、みりんを合わせた地に絡ませておく。
  3. 2の水気を取り、オブラートを挟んで海苔で巻く。
  4. 水と小麦粉を合わせ天婦羅の衣を作り、3に絡め、多めの油を敷き、たまに転がしながら、全体をサクッと仕上げる。
  5. 4の揚った磯部揚げを適当な大きさに切り、塩をふる。お好みで、山葵を添えても良い。

Fukinoto − 蕗の薹 −

POINT 灰汁抜き 1

「蕗の薹(フキノトウ)」には、デトックス効果が期待される成分のカリウムが豊富。さらに苦味成分もあります。どれも水溶性で水に流れてしまいますから、蕗の薹を天婦羅にするのは理に適っています。今回は、湯がき過ぎないように灰汁を抜いてから使います。灰汁抜きのお湯はアルカリ性に近い方がよいので、軽く塩を入れます。また、銅鍋を使うのは、鍋から溶け出した成分が、蕗の薹の葉緑体と結合し、色が抜けずきれいに灰汁抜きができるからです。

【レシピ】蕗の薹の白和え

材料

蕗の薹…5個(約17g、湯がいて絞って…16g)/椎茸…2枚(約38g、焼いて刻んで…24g)/コンニャク…15g /塩…少々豆腐…60g /練り胡麻…3g
砂糖…5g /塩…1g

作り方

  1. 蕗の薹を湯がいて少し水に晒しよく絞って刻んでおく。
  2. 椎茸に塩をあて素焼きにし刻んでおく。
  3. コンニャクは、低温で灰汁抜きをし刻んでおく。
  4. 軽く水切りした豆腐に、練り胡麻、砂糖、塩を加えミキサーにかける。
  5. 1 ~ 3の食材をボールに入れてよく混ぜてから、4の白和え地を合わせ、サックリと混ぜる。

Yomogi − 蓬 −

POINT 灰汁抜き 2

5月頃の硬くなった「蓬(ヨモギ)」や蕨(93ページ)など、やわらかくして、なおかつ色を残したいときには、重曹を使って灰汁を抜きます。重曹をお湯に入れると沸点が103℃まで上がり、短時間でやわらかく湯がくことができます。湯がく時間が短ければ、蓬の色も飛びません。

【レシピ】蓬豆腐の白味噌仕立て

材料

蓬(蓬ピュレ)…7g程度
昆布出汁①…100g /本葛…10g /練り胡麻…8g /塩…少々/淡口醤油…少々/胡麻油…適量
昆布出汁②【水…400g /昆布…3g】/白味噌…140g /赤味噌 …1 〜 2g /鰹節…適量
辛子、水…適量

作り方

  1. 蓬を湯がいて、水に落とし、絞って、すり鉢で当てる(蓬ピュレ)。
  2. 昆布出汁①、本葛、練り胡麻、塩、淡口醤油を合わせよく溶かし、細かい目のザルなどで漉し、混ぜながら火にかけ、程よくトロミがついたら、1の蓬のピュレを加えよく混ぜ、流し缶などに流し冷やし固める。
  3. 昆布出汁②を鍋に入れ、火にかけ、沸いてきたら白味噌、赤味噌を溶き、鰹節を加え、漉す。
  4. 辛子と水を合わせ、水辛子を作っておく。
  5. 2の豆腐を適当な大きさに切り、蒸し器で蒸してやわらかくし、器に盛り、温めた3を注ぎ、4の水辛子を一滴落とす。

Kinome − 木の芽 −

POINT 変色を防ぐ

木の芽を混ぜる際には、わずかに塩を加えます。そのまますると、木の芽が真っ黒くなり、汚い色になるからです。さらに木の芽だけで色を出そうとすると、濃すぎてピリピリした味になってしまいます。そこで、ホウレンソウをゆでて絞って抽出した葉緑体を木の芽に混ぜる昔からの方法で、木の芽味噌の色を出しています。

【レシピ】筍の木の芽味噌田楽

材料

木の芽…5g /ホウレンソウ…12g(湯がいて絞って…20g)/白味噌…40g /田舎味噌…2.5g /みりん…5g /塩…0.5g ※出来上がり木の芽味噌田楽…40g
タケノコ(湯がいたもの)…80g

作り方

  1. ホウレンソウを湯がいて水に落とし、水気を切り、よく刻んでおく。
  2. すり鉢に、木の芽とホウレンソウ、塩を加えよくすり、白味噌、田舎味噌、みりんを加える。
  3. タケノコを素焼きして、2の味噌を塗る。
    ※ 1個分の木の芽味噌…約5g
    素焼き:260℃ 5分 田楽焼き:260℃ 3分

Hisato Nakahigashi
1969年、京都府生まれ。高校卒業後、米国とフランスの大学でホテル経営を学ぶ。パリのレストランなどでサービススタッフとして働いた後、 24歳で帰国。金沢の料亭で修業を積み、26歳で「美山荘」四代目に就く。 2017年1月から5月まで、東京・日本橋茅場町で開催されたアートと食の展覧会「食神さまの不思議なレストラン展」で、和食監修を務めた。

料理王国=取材、文 富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国2017年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2017年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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