東京・白金台の「ビッフィ テアトロ」でシェフとして腕をふるう後藤祐司さんは、2012年のイタリア料理コンクール(在日イタリア商工会議所主催)で優勝。審査員の日本イタリア料理協会会長、落合務氏からも「その出来栄えには目を見張るものがあった」と称賛された。今、もっとも注目される若手シェフのひとりである。
27歳で渡伊。イタリア中部のウンブリア州で2年、南部のシチリア州で1年修業をした。海に面していないので、ウンブリア州では肉料理が盛んで、精肉だけではなく、すべての部位を余すことなく利用し、保存することが習慣化されている。特産物に畜肉加工品が多いのもうなづける。サルシッチャはもとより、豚のレバーを加えて作るマッツァフェーガトというサラミ、大きな角切りの脂肪が入ったコラッリーナ・ディ・ノルチェという豚肉のサラミ、豚のホホ肉の塩漬け……。後藤さんは、リストランテで働くかたわら近所の肉屋へも通い、生ハムやサラミの作り方を教わった。「おしゃれではないけれど、ボリューム感たっぷりの旨い肉料理。僕にはそれが、とても魅力的に映りました」
イタリア料理コンクールで優勝した際の表彰状が、店の壁に飾られている。
ウイキョウ[Fennel ]
ウイキョウもシチリア州の特産物。下の白い部分はサラダにしたり、炒めたりして食べる。葉はそのまま料理に添えたり、刻んでフレッシュなスパイスとして使ったりする。
一方、シチリアは魚介類や柑橘類の宝庫。ビザンチンやアラブ、フランス、スペインなどの支配を受けた歴史的背景もあり、調理の仕方や料理もバラエティに富んでいる。例えば、マグロの卵巣を塩漬けして熟成させたマグロのボッタルガは、いまやシチリアの特産物だが、もとはマグロ漁とともに、アラブ人がもたらしたものである。「粉ひとつとっても、ウンブリアでは小麦粉を使う。シチリアではセモリナ粉。パスタを作るときも、粉が違えば作り方も異なってきますから、2つの地方で修業をしたことで、確実に料理の幅は広がったと思います」と後藤さんは言う。「ヘタに手は加えず、見せ方で現代を表現しつつ、日本でも、旨い料理を旨いまま提供していきたい」
若きシェフは、オープンキッチンの内側で、お客様の笑顔を感じつつ、自分ならではの旨さを追求する
黒トリュフとオリーブオイルが2大食材
アックアラーニャは黒トリュフの三大産地のひとつで、ウンブリア州ではフレッシュはもちろん、水煮やペーストなどにも加工されている。一方のオリーブオイルは、ウンブリア州全土がオリーブの保護指定原産地となっている。
ウンブリア州の知人の農園で作るエクストラヴァージンオリーブオイルは青臭い風味が気に入っている。
ウイキョウはフレッシュな葉とシードの両方を使う。それら両方とパン粉を混ぜて、ウイキョウパン粉を作る。
ウイキョウ、パン粉、エクストラヴァージンオリーブオイルをミキサーにかけたあと、フライパンで炒める。
ニンニクやエシャロット、サフランなどで作ったサフランソースをあたため、パスタと和える
ニンニクやエシャロット、レーズン、松の実などを炒めたのち、トマトとバジリコを加えて具を作る。
オリジナルの薫製香をつけたエクストラヴァージンオリーブオイルでマリネしたイワシの形を整える。
ニンニク、フレッシュトマト、豚のスーゴで作ったトマトソースを、薄くお皿にひく。
トマトソースの上に、自家製タリオリーニと松の実やトマトなどの具、イワシを盛り、ウイキョウパン粉をかける。
代表的なシチリア料理。イワシ、レーズン、松の実、ウイキョウなどを炒め合わせてパスタとあえるのが地元では一般的。後藤さんはパスタの上に具やイワシなどを盛って現代風にアレンジ。
材料(4人分)
自家製タリオリーニ(強力粉、セモリナ粉、卵黄、エキストラヴァージンオリーブオイル、塩)…360g /トマトソース(ニンニク、フレッシュトマト、豚のスーゴ)…適量/イワシ…4尾
●サフランソース
ニンニク…5g /オリーブオイル…30g /赤ジャガイモ…70g /エシャロット…20g /野菜のブロード…250ml /サフラン…1g /塩…適量
●松の実レーズンソース
ニンニク…5g /エシャロット…20g /オリーブオイル…40ml /松の実…40粒/レーズン…30粒/野菜のブロード…80ml /バジリコ…3枚/トマト…2個
●ウイキョウパン粉
パン粉…100g /オリーブオイル…20cc /ウイキョウの葉…20g /ウイキョウシード、塩…各適量
作り方
1.イワシはおろして塩を強めに振り、燻製したオリーブオイルでマリネして燻製フレッシュアンチョビを作っておく。
2.サフランソースを作る。鍋にニンニク、エシャロットのみじん切りとオリーブオイルを入れて加熱する。さらに、水にさらした赤ジャガイモのスライスを加えて炒める。なじんだら野菜のブロード、サフラン、塩を加え、軽く煮込んだらミキサーでまわして、ソースとする。
3.松の実レーズンソースを作る。別の鍋にニンニク、エシャロットのみじん切りとオリーブオイルを入れて加熱する。さらに、レーズン、松の実を加えて軽く色付くまで炒めたら、野菜のブロードを加え、軽く煮込む。仕上げに皮と種を取ったトマトとバジリコを加える。
4.ウイキョウパン粉を作る。すべての材料をミキサーにかけてフライパンでじっくり炒る。
5.皿にトマトソースをひき、サフランソースで和えたタリオリーニを盛り付ける。松の実レーズンソース、イワシを盛り込み、仕上げにウイキョウパン粉をかけて仕上げる。
ペルージャの「オステリア・バルトロ」や、シチリア州の2ツ星レストラン「リストランテ・ドゥオーモ」で修業。2011年に「ビッフィ テアトロ」のシェフに就任。
ビッフィ テアトロ
Biffi Teatro
東京都港区白金台4-19-21
白金イガックスビルB1F
☎03-5789-0206
● 11:30~14:30(13:30LO)
18:00~23:00(21:30LO)
● 月休(祝日の場合は火休)
●コース 昼1800円~ 夜7500円
●34席
www.biffi -teatro.jp
山内章子=取材、文 星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国225号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は225号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。