麻布十番から銀座へ移転して1年。「銀座という場所柄、みなさん牛をお求めになります」と本多さん。その日ごとのおまかせコースが基本ではあるものの、メインに関しては牛肉がほぼ定番となっているという。「スリオラ」の炭火焼きの最大の特徴は、途中から薪を加えて焼き上げる炭と薪のダブル使い。牛肉の表面はゲラン塩で埋め、しっかりした焼き色と焦げ目が入る。本多さんのおもな修行先であるスペインのバスク地方では、肉を焼くのに用いるのは薪。ところが日本への帰国後、和食店で焼き場を経験したことで炭の素晴らしさに目覚めた。そうして生まれたのが、焼き鳥店でも使われている焼き台を用い、炭焼きの途中から薪を加える独自のスタイルだ。
「炭の力を借りつつ、最後にはバスク地方のテイストが残るようにしたいと考えました。これはスペイン料理ではなく、僕の料理といえます」この焼き台で、魚も焼けばキャビアも燻す。燻製キャビアは「スリオラ」のスペシャリテでもある。
「この店では、これまでの経験を通して出合ってきたおいしいもの、自分が本当に作りたいと思うものを提供していきたいと思っています」ルーツであるバスク地方の料理をベースとしながら、ジャンルの枠を超えて理想の味を追求する姿勢から、今後も目が離せない。
くまもとあか牛のサーロイン
牛肉はこの1品種のみを麻布十番時代から継続して仕入れている。肉から落ちる脂肪が燻されて肉に香りをつけるため、ほどよい量の脂肪があり炭との相性がよい。また、噛んだ時の肉らしい感触があることも、この肉を選ぶ理由とのこと。
ブドウの枝で作られた薪
スリオラの炭火焼きは、炭で焼き始めながら途中で薪を投入し、薪焼き特有の香りを加えるのが特徴だ。薪に使うのはワイナリーの協力で仕入れているブドウの枝。さまざまな種類の薪を試した結果、スペインでも使われており、食材を選ばず使いやすいブドウに落ち着いたという。現在は、安定して入手できる巨峰を使用。手で簡単に折れ、きめ細かな火量の調節も可能だ。
・炭を格子状に積み上げ、焼き台内部を充分に温める
・肉の表面を塩で覆い、蒸し焼き状にする
・ブドウの枝で作った薪をくべ、肉を炎で包み香りをつける
ガスコンロに網を置き、その上に炭を並べてバーナーで火にかける。炭の表面が白っぽくなり内側が赤くなるまで、つねに強火を当て続ける。
肉に鉄串を刺す。肉の厚みの真ん中に差し込み、やや扇状に広がるよう意識しながら貫通させる。扱いやすくなるのと同時に熱伝導率がアップする。
炭を組んで焼き台を温める
焼き台の中に、火のついた炭を格子状になるよう2段に重ね、さらに新しい炭をその上に重ねる。炭は間隔を空けて並べることで、風の通り道を作る。
肉の表面を塩で覆う
肉は常温に戻しておき、焼く直前に塩を加える。塩はフランスのゲラン塩を使い、肉の表面に軽く撫でつけるようにして完全に覆い尽くす。
焼き始めてしばらくすると、パチパチ音を立てながら焼き面から少しずつ塩が落ちていく。1分程度経過する頃には、徐々に煙が立ち昇り始める。
薪を加えて炎に包ませる
肉を返して両面に焼き色がついてきたら、炭の上にブドウの枝で作った薪を投入。勢いよく上がる炎と煙で肉を包み込むようにして香りをつける。
塩の粒を表面にほどよく残しながら、ところどころ焦げるくらいの焼き色に仕上げる。鉄串を指で回転させ、スムーズに回るかで内側の火の入りも確認。
焼き上がったら一度火から降ろし、食べる直前に仕上げのため再び火にかける。焼き上がったら、鉄串の根元に軽くふきんを当てつつ一気に引き抜く。
焼き上がった肉は筋や脂をカットして取り除き、軽く形を整えて手際よくカット。「とにかく早く。海外修行中に言われ続けていたことです」と本多さん。
シェリービネガーと砂糖で整えたソースを軽く添え、スペインの牛肉料理には欠かせないバスク地方のピキヨースピーマンの煮込みを付け合わせに。
スリオラ
ZURRIOLA
東京都中央区銀座6-8-7 交詢ビル 4F
03-3289-5331
● 11:30~13:00 LO 11:30~13:30 LO(土日祝) 18:00~21:00 LO
● 月休
● 27席
zurriola.jp
田中英代=取材、文 林輝彦=撮影
本記事は雑誌料理王国第268号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第268号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。