肉の柔らかさ、甘みを際立たせる調理法「マルミット」を知っていますか?


肉のやわらかさと甘味を際立たせる調理法のひとつが「マルミット」

「フランス料理のトップシェフ」と評価の高い高良康之さん。フランス産の牛肉はもちろん、国産牛についても北から南まで多くの黒毛和牛や褐毛和種のほか、日本短角種についても、18年ほど前から注目して調理してきたという。そんなシェフだから言えること――「黒毛、褐毛、短角、どれも魅力的な食材です。それぞれに特徴があるが、旨味を引き出す調理法が異なる。違うからこそ、やりがいがあって楽しい」。

牛肉に赤身の旨味やヘルシーさが求められるようになって以来、短角牛などが人気で、商品の発送が間に合わない状態が続いているとも聞く。だが、「銀座レカン」における、黒毛和牛と短角牛の人気は半々くらい。「サシが多い肉は年齢的にきついという方もいらっしゃいますが、牛肉好きのお客さまの中には、やはり黒毛和牛を支持される方が多いようです」と高良さんは分析する。

料理によってはA5よりA4がいい場合もある

高良さんが黒毛和牛を仕入れる場合、ブランドや産地にはこだわらない。「赤身があって、小ザシが入っているもの」を条件に、その都度、仕入れる肉を変えている。ひとつのブランドに決めないのは、料理によって肉に求めるものが異なるからだ。「たとえば、さっと焼いてエシャロットのコンフィなどをのせる場合は、エシャロットの酸味と肉の甘味との調和がポイントになる。どんなによくできた肉でも甘味が強すぎると、この料理には向かないんです」

ランクにしても、必ずしもA5がいいというわけではなく、A4を選ぶ場合もある。

“食べ頃”についてはどうだろう。

「黒毛和牛の場合は、短角牛に比べると、味の輪郭がはっきりしているので、店に届いてすぐに使うというシェフもいるでしょうね。私の場合は、やはり肉の状態を見ながら提供する日を決めるようにしています」

料理法としては、そのまま焼くのもいいが、今回のようにフレンチの技を使ってマルミットにすると、いっそう黒毛和牛のまろやかで繊細な旨味が際立つ。マルミットとはフランス語で鍋のこと。焼いた肉にコンソメを注ぎ、鍋で煮たような温かさを出した。今回はロース肉のやわらかな部分を使ったのでスープを注いで合わせたが、イチボや肩ロースなどを使うなら、煮込んでもよい。「黒毛和牛を焼くうえでの注意点もあります。まず、焼き色を付けないようにフライパンの中で転がすように低温で焼くこと。肉が持っている脂を溶かし、溶け出た油を肉にまとわせるようなイメージです。そのあとオーブンに入れるのですが、その際、低温で火を入れて短時間で取り出すということを繰り返します。これも肉の脂を溶かして、肉にまとわせるためのテクニックです」

高良シェフが黒毛和牛を注文する際に必ず出す条件は「小ザシで赤身部分が多いこと」。産地は特定せず、料理に合わせて選んでいる。ランクはA4かA5で、部位はロースかヒレを使うことが多い。

高良流 焼きのテクニック

肉の脂を全体にまとわせる感覚で低温でつやっぽく仕上げる

室温に戻して塩をふったら、低温で焼き色が付かないように加熱。肉から溶け出す脂を再び肉にまとわせるように焼く。表面を焼いたらバットに移してコンベクションオーブンに入れる。

90℃で5分間加熱したら、5分間休ませる。その後、3分間加熱して3分休ませるというのを3回繰り返し、最後にフライパンにオイルとバターを入れ、ここに肉を入れて焼き、香りを付ける。

焼き上がった肉を切ってみると、全体的に均一に火が入っているのがわかる。サシの部分が透明感のある仕上がりになっているのは、溶けた肉の脂が肉全体によく絡んでいる証拠だ。

黒毛和牛ならではの脂を活かし、スープ仕立てにしてよりふくよかで贅沢な味わいに。

黒毛和牛のマルミット仕立て、コニャックの芳香
低温でしっとり焼き上げた牛肉と上品な味わいのコンソメスープとの相性は抜群。トマトの酸味とコニャックやマデラの香りが印象的なコンソメスープは、レモングラス、ナメコ茸、ジロール茸を入れたポットの中に注いで完成。肉にこのコンソメスープをかけていただく。

上村久留美=取材、文、富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国245号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 245号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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