【後篇】伝統は進化している。「オステリア・デッロ・スクード」小池シェフの”トゥロフィエのペスト・ジェノベーゼ”


 一目見た瞬間、その素朴な味わいをイメージし、親近感を覚えずにはいられないトマトソースのパスタ。2016年に独立した樫村仁尊シェフがこの一品に出合ったのは、調理師専門学校を卒業後の1995年から勤務した「リストランテ アクアパッツァ」だ。

 同店の日髙良実シェフはすでに青山の新店も統括していたため、毎日のように厨房で指導を受けていたわけではない。「背中を見て学んだ感じ。このパスタも、シェフが作っているのを見て覚えました。特徴は、バターを使っていること。素直に美味しいと思っていたけれど、後にこれはトマトの酸味を和らげるのが目的だったのだと気づきました」。ポイントは、バターを溶かすのではなく、強めに色づくまでしっかり焦がしつけること。酸がまろやかになるのはもちろん、香ばしさと深みが加わるため、砂糖などを用いる方法より理にかなっている。

 その後、日髙シェフがレシピ本を出版する際のサポートなども経験。理論の核は、常に「素材を生かすこと」。でも、本当にその意味がわかったのは自分で店を持ち、すべての責任を負う立場になってからかもしれないと話す。カウダ。バブルの余韻もあり、手が込んだフレンチがもてはやされた時代に、“潔すぎて、料理人が何も仕事を施していないじゃないか!” と言われかねない料理。屈せずに定着させたことが凄い。リスペクトの意味をもって、うちではこの2品を提供していないんです」

【レシピ】 トゥロフィエのペスト・ジェノヴェーゼ

■ トゥロフィエのペスト・ジェノヴェーゼ
材料(作りやすい分量)

バジリコの葉……20g
松の実……15g
粗塩……1粒
ペコリーノ・サルド……10g
トゥロフィエ40g(1人前)
茹で汁用の塩……適量

作り方

  1. モルタイオに松の実、粗塩を加えて擦り潰す。
  2. バジリコの葉を加えて押すように擦り潰していく。[A][B]
  3. 仕上げにペコリーノ・サルドを加える。
  4. 塩湯でトゥロフィエを茹でる。
  5. トゥロフィエをペスト・ジェノヴェーゼで和える。
A
B

■ トゥロフィエ

シェフからの一言アドバイス
レシピ通りにしても湿度や温度、こねる台よってコンディションが変わります。私は程よく摩擦があり、生地の水分を吸収してくれる、木製の台を選んで使用しています。トゥロフィエは難易度が高いですが自分の感覚をつかんでください。「グルテンを信じましょう」。

セモリナ粉……500g
水……220 ~ 230ml
塩……5g
塩……適量

作り方

  1. 生地をこね棒状にする。さらに細長くして幅1cmくらいに切る[C]
  2. 小指のつけ根から生地を置いて、左手前にころがしながら、らせん状に成形する。[D][E]
C
D
E
小池教之(こいけ・のりゆき)

小池教之(こいけ のりゆき)
1972年生まれ。93年「ラ・コメータ」から修業を開始。2003年に渡伊。トレンティーノ・アルト・アディジェ、ピエモンテ、ウンブリア、プーリア、シチリア、カンパーニアの6州で研鑽を積む。帰国後「インカント」シェフを経て、 2018年独立。オーナーシェフとして現店をオープン。

オステリア・デッロ・スクード
東京都新宿区若葉1-1-19 Shuwa House 014 1F
TEL 03-6380-1922
月曜~土曜 18:00 ~ 23:00(最終入店20:00)
日曜定休、月1回不定休あり


text 飯島千代子 photo 海老原俊之

本記事は雑誌料理王国2020年8・9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年8・9月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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