海外で恥をかかない”メニュ”の正しい使い方


英語のmenuが意味するところ

食べ物が外国で一般的になると、本国とは違う進化を見せ、その土地ならではの味わいに変化するのはよくあることです。言葉も同様。カタカナで一般化した外来語が必ずしも本来の意味と同じではなく、微妙にずれることがあります。

ただ、その変形した言葉の意味が、もととなった言葉も同じと信じて疑わず、日本語の意味でもって英語にしたときに、首を傾げる現象が発生します。

そのひとつが、メニュ。

日本語のメニュは、メニュ表(献立表、リスト)でもあり、メニュ表にある料理の一品一品のことも意味しますが、英語のmenuはあくまでメニュ表(献立表、リスト)のことであって、料理の一品一品のことではありません。それを英語のmenuにおいても、日本語で意味する料理の一品一品と同じように扱っているのは、日本ではよく見る光景です。

もう少しわかりやすく言うと、
「このレストラン、メニュが多いね」という表現は日本語では違和感がなくても、これをそのまま英語に置き換えた
「There are many menus at this restaurant」
はおかしいということです。

では、英語でどう言うのでしょう。
「There are many choices/dishes on the menu at this restaurant」あたりが妥当です。訳すと、「このレストランのメニュ、選択肢/品数が多いね」となり、choicesだと選択肢、dishesだと料理数が強調され、menuはあくまでメニュ表(献立表)を指すことが理解できるかと思います。

コースメニュは英語でどう表現する?

コースメニュをそのまま英語に置き換えて、course menuと表されることがありますが、これも違和感があります。コースメニュを英語で表現する場合、そのコースが5品出てくるのであれば、five courses(この時のcourseは複数形です)と表現します。

ランチで2コース、3コースと用意している場合は、Set Lunch, ¥○ for two courses, ¥○ for three coursesなどとなります。

こういう感覚は、微妙な、でもなんだか感じる違和感として印象に残るので、日本語だけ、英語など外国語だけで生活していると感じにくいかもしれません。人は些細なことで評価を下します。飲食店の英語表記も例外ではありません。「合っているかな?」と感じたり迷ったりしたら、きちんと調べて、料理同様、ていねいに言葉を扱いたいですね。


文=羽根則子

食のダイレクター/編集者/ライター、イギリスの食研究家。出版、広告、ウェブメデイアで、文化やレシピ、技術、経営など幅広い面から食の企画、構成、編集、執筆を手がける。イギリスの食のエキスパートとして情報提供、寄稿、出演、登壇すること多数。自著に、誠文堂新光社『増補改訂 イギリス菓子図鑑』など。


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