日本のカレーの進化が止まらない。カレーも、そのカレーを作る人も、より独自の道へ。「らしさ」を謳歌する5軒を紹介する。
NEW GENERATION 03
大江カレー
2019.OPEN
カレーとライス。以上。まずは副菜などの一切ない、ストイックな構成に目を奪われる。味わいは、全体のスパイス感や塩気が穏やかで、そのぶん特定のスパイスや素材の風味が立っている。また、カレーといっしょに食べるごはんがとても甘く、旨く感じる。そして、食後感が驚くほど軽い。一見ありそうで、そうそう巡り会えないバランスのカレーだ。
大江カレーの原点は、名店「curry 草枕」にある。現在36歳の店主・大江健太郎さんは、会社員時代に「草枕」のカレーと出会い、同店の常連に。その後、31歳からの約4年間を「草枕」のスタッフとして過ごした。「草枕のカレーはサラッとしていて、くどくなる前に食べ終わる。そして、また食べたいなと思わせる。その感じがとても好きでした。まかないで毎日食べても全く飽きないんです」そう語る大江さんがカレー作りで大切にしているのが、“引き算”の考え方だ。「たとえば魚介カレーは魚介類の出汁を、野菜カレーはバターの味を引き立たせるべく、あえて玉ねぎを飴色に炒めず、主張を弱めにしています」他にもカレーによってはトマトやにんにくの押し出しを弱めたり、出汁の要素を極力控えたりと、「うま味を重ねすぎないこと」に注力する。「その辺は好きな音楽にも通じるかもしれません。自分は特に60年代、70年代ロックが大好きで、たとえばAC/DCなどの飾らずシンプルに魅せるスタイルに、とても美学を感じます」また大江さんは Twitterで、自身のカレーをRamonesやEater、Buzzcocksなどの初期パンク音楽になぞらえたこともあった。
シンプルな手法で心を揺さぶる音楽の如く、飾り立てることなく際立たせたいうま味をストレートに伝えるカレー。インド風カレーのレジェンド店を源流としつつ、スパイスのメリハリやオールドロック的な潔さは、より研ぎ澄まされているイメージだ。華やかなスパイスカレーが隆盛だからこそ、新鮮に感じる。
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text ワダヨシ、田嶋章博 photo 本多 元
本記事は雑誌料理王国2020年6・7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年6・7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。