誰もが愛する「商店街のカレー屋さん」として輝く「トミヤマカレー」


日本のカレーの進化が止まらない。カレーも、そのカレーを作る人も、より独自の道へ。「らしさ」を謳歌する5軒を紹介する。

NEW GENERATION 02
トミヤマカレー
2020.OPEN

「もし自分が世田谷に店を出したら、街の雰囲気と合わないだろうし、そもそも面白くない。高円寺…も、ないですね」自らをひねくれものと称し、昨今のカレー・トレンドとは別文脈の店を志向する永井志生さんが「トミヤマカレー」をオープンした場所は、JR山手線・大塚駅南口の商店街。確かに、人気カレー店が多い世田谷や高円寺が放つカルチャーっぽさとは違う、古い洋食屋や純喫茶が似合いそうな庶民的ムードが漂う。音楽にも強い思入れのある永井さんだが、店内で流すのはラジオ。あえて個人のテイストを主張しないのは、子どもからお年寄りまで、幅広いお客さんが心地よく、おいしいと思えるカレー屋を目指しているから。

生まれは富山県。東京の名店「デリー」の支店として知られる高岡市の「デリー」や、砺波市の「タージ・マハール」でカレーにハマり、夜行バスで東京に通ってカレー屋とレコード屋を巡る青春時代を過ごす。28歳で上京。新宿「curry草枕」のキッチンを経験し、約半年間の間借り営業を経て独立した。
カレーファンに限らない多くの日本人の味覚に訴えたい。そんな「豚キーマカレー」や「ビンダール風カレー」で印象的なのは、ごろりとしたサイズにカットされた大根やゴボウ。噛むと、出汁感がジュワっとあふれる。野菜の煮物やおでんのごときその感覚は、あらかじめ根菜を醤油、みりん、砂糖などで別に煮含めて寝かせてからカレーのグレービーに合わせることで得られる。ディッシャーで丸く盛られた付け合わせのポテサラも日本の洋食風で、誰もが愛するワンポイントになりそう。そんなカレーにぴったりなフレンドリーなロゴは、カレーのZINE『curry note』の発行人としても知られるデザイナー、宮崎希沙さんの作。永井さんの妻である。

開店予定日が、新型コロナウイルスによる自粛ムード高まる時期に偶然重なってしまい、迷いに迷いながら初日を迎えた。街に活気が戻れば、大塚の商店街のカレー屋さんとして、さらに輝きを増すに違いない。

ゴボウの入った「豚キーマカレー」と「ビンダール風カレー」のあいがけに、ゆで卵をトッピング。選べるカレーは他に「ラムキーマ」や「豆のカレー」など。カレー2種あいがけが1,000円。トッピングは他に温泉卵、ほうれん草、ナス(素揚げ)、ひよこ豆など、1種類追加ごとに100円プラス。
サンモール大塚商店街のアーケードをくぐってすぐの物件は、元歯科医院。偶然の縁でめぐり合い、すぐにピンときて決めた。店名の「トミヤマ」は富山のことで、永井さんの出身に由来している。
食品サンプルのある店の風情が大好きで、自分の店にも陳列したいと考えていた。
愛読書2冊。「草枕」店主の馬屋原亨史さんに勧められた『スパイスのサイエンス』は自分が調理経験で体感したことを理論で裏付けてくれた。『包丁人味平』カレー編は「カレー的なノリ」が存分に味わえるエンターテインメント。
キャップを被ったカレー好きキャラ「トミヤマ君」をあしらったお店のロゴは、前出の宮崎さんが制作を担当。
妻の宮崎希沙さんが発行するZINE『curry note』。2019年発行のスーパー・デラックス版では、間借り時代の「トミヤマカレー」がリポートされている。ふたりの出会いの場は、宮崎さんもバイトをしていた「草枕」。
物件にもともとついていた黒板掲示用の薄いケースのなかに壁と水平にディスプレイ。かわいらしくも斬新。
白いタイルのカウンターは、永井さんが影響を受けた「カレーハウス チリチリ」(2020年に渋谷から埼玉県・戸田公園に移転)を意識している。愛するカレー店は他に、初台「きんもち」、神保町「エチオピア」、大阪「もりやま屋」、そしてもちろん「草枕」。
街のカレー屋らしさが溢れつつ決してレトロではない、清潔感のあるデザイン。永井さんの目指す店舗イメージに見事にマッチ。
トミヤマカレー
東京都豊島区南大塚3-55-1 A1ビル1F
TEL 080-9706-4252
11:30~14:30、18:00~20:00 売切次第終了
土曜日はランチのみ 日定休
https://tomiyamacurry.com/
twitter @TOMIYAMACURRY
テイクアウトあり。営業日時やメニューは今後変更の可能性があるため、詳細は上記SNSをチェック。

永井志生(ながい・しき)
富山県出身。2013年に上京し、新宿「curry草枕」のホール担当に。2015 ~ 18年は「草枕」のキッチンスタッフに専念。2019年7~ 12月、梅ヶ丘「Quintet」での間借り営業を経て、2020年4月1日に「トミヤマカレー」実店舗を大塚にオープン。

この記事もおすすめ!
鯛と鶏のダブルスープとレモンの爽やかさが斬新 「モダン・レモン・チキン」

text ワダヨシ、田嶋章博 photo 本多 元

本記事は雑誌料理王国2020年6・7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年6・7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする