定番となっている組み合わせのなかにも、 食べ合わせがNGだと言われている食材たちがある。 そこを自由な発想で、クリアする料理に仕立てていただいた。
シィ ◉ 渡辺史門さん
コースを通じて砂糖とコショウは使わず、塩すらも存在意義を問う。そんな、基本を根底から覆す料理を提供してくれる店が、東京・広尾の「シィ」だ。シェフの渡辺史門さんは、長年建築業界で生きてきたという、料理人のなかでは稀有な存在。今回はその、ほかにはない創造性をもって、「食べ合わせ」に挑んでいただいた。普段は、料理人として「食べ合わせ」をどう考えているのだろうか。
「料理を作る時に『食べ合わせ』を意識したことはないですね。ただ、食材の組み合わせを考える時に合うものを選んだ結果、『食べ合わせ』がよくなる可能性はあると思います」 渡辺さんは店で提供する料理を考える時、素材同士を組み合わせることで生まれる、相乗効果や、対比によって生きてくるもの、包み込んでこそ表れるものを、つねに考えているという。
「今回作った、シラスと酢の入ったジュレ、ダイコンという組み合わせは、いつもなら『ダイコンの刺激を酢の酸味がまろやかに包むから合わせてみよう』と考えます。結果、『食べ合わせ』 はよくなっている。そういうことかな、と」シェフの考えた「おいしいもの」を提供した結果、「体によいもの」になるのなら、それはレストランと客、両方にとって嬉しいことだ。「現代人は砂糖や化学調味料、香辛料など、舌にも体にもインパクトの強いものをとってしまう環境にあります。体によい悪い以前に、強いものは味を支配してしまうので、とり続けると素材そのもののよさが感じにくくなる。料理は素材ありき、と気づいてからは、素材を感じるための調和を考えて料理をするようになりました。とりあえず塩、コショウではなく、何を感じたいか、味わいたいかで味つけは変える必要があると思う。選択肢を減らさないことで、 食生活が豊かになります。そして、味はもちろん、香り、食感、さらに食べる時間や体調、すべてが調和すると、結果的に体によいのではと思います」
素材の素晴らしさを感じられる調和。それが新しい「よい食べ合わせ」となるのかもしれない。
シラスに豊富に含まれる必須アミノ酸であるリジンの吸収を、ダイコンが妨げてしまう。これは、ダイコンに含まれる物質が、特定の酵素の働きを阻害するリジンインヒビターとして働くからといわれている。ダイコンを加熱してリジンインヒビターの働きを抑制するか、アミノ酸が含まれる酢などと一緒に食べて栄養を補えばよいとされている。
臭みが気になるものには、薬味を添えるのが定番である。 ただし、ビタミンや鉄分などの栄養が豊富なレバーにミョウガを合わせて食べることは、ミョウガに含まれる苦味物質が 胃腸の働きを弱め、吸収しづらくなるためによくないとされる。ミョウガを酢水につけてあくを抜いたり、胃腸の働きを活発にするショウガをプラスすれば解消されるという。
サラダでよく見る定番の組み合わせ、トマトとキュウリ。しかし、キュウリに含まれるアスコルビナーゼという酵素は、トマトに豊富に含まれるビタミンCの酸化を促進してしまうため、よくない食べ合わせとされる。一緒に食べる際には、 酵素の働きを抑制する酢を含むマヨネーズやドレッシングなど、もしくは酸味の強い柑橘を加えて食べるとよい。
Shimon Watanabe
建築・プロダクトデザイナーという異色の肩書を持つ料理人。ジャンルを問わずさまざまな名店へ足を運び、独学で料理を学ぶ。2016年、東京・広尾に「シィ」をオープン。「無垢」と「調和」をコンセプトとした、独特の世界観で注目を集める。
澤 由香=取材、文 林 輝彦=撮影
本記事は雑誌料理王国2017年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2017年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。