シェフ自らがハンター
腸はその場で除き、山野草と共に調理
東京・六本木の路地の裏。「ラ・シャッス」は坂道の途中にひっそりとたたずむ。「店名は『狩り』を意味するんです。ジビエは、私とマダムが仕留め、処理し、調理するからです」とオーナーシェフの依田誠志さん。狩りを初めて15年目を迎えた。じつは取材を終えた翌日、「今朝早く、ベキャス(山シギ)を仕留めたんです」と弾んだ声で電話がきた。それは凄い!ジビエの女王と呼ばれ、珍重される希少なベキャスをぜひ、と撮影させていただいた。(右上の写真)
蝦夷鹿、五島列島の猪、千葉のキジ、獲物を求めて駆け巡る
狩りをし、キノコを採り、野生の命をいただく。そのライフスタイルの奥には、自然とともに生きる謙虚な気持ちが宿っている。そんな暮らしに憧れたのは、フランス南西部、ドルドーニュ県の一つ星レストランで働いていた20代の頃だ。それから10年以上を経て、依田さんは、狩人たちが集まる中世の古城のような「ラ・シャッス」をオープンさせた。北海道の蝦夷鹿、長崎五島列島の猪といった大物から、千葉で射止めたキジや山鳩、真鴨まで、食材になるのは、すべて一期一会のジビエ。つまり、仕留めたジビエによって、アラカルトのメニューが決まる。この日は、「千葉で仕止めた日本キジ胸肉のポトフ仕立て採ってきた自家製ドライモリーユ茸を添えて」。
一発で仕留めたキジを、どのようにして最高の旨さに仕立てるのか。「仕止めてすぐその場で腸だけ抜きます。これは長年のハンターシェフの経験から得た知識ですが、歩くことの多い鳥は、内臓の体温が高いのと、腸が太く、アタック(匂い)が強い。だからできるだけ早く腸を抜き、体内の熱を下げるようにします」その後、フザンタージュするのだが、ここで大事なことは「個体の年齢を予想し、さらに重さ、弾の当たった箇所の確認をすること。特に足に被弾している場合は、あまり熟成せず、早めに処理します」
また、ジビエのシーズン以外でも、野山に行き、キノコを採ってきたり、天然のクレソンやセリ、半野生化したフルーツやシイタケなども採って、料理に活かす。「モーリエ茸の群生を見つけたときは興奮しました」とほほ笑む依田さん。25歳のときにフランスでカルチャーショックを受けたライフスタイルの舞台となっているのが、「ラ・シャッス」。自然の恵みを活かしきる術を会得している依田さんの手になるジビエが旨いのは、当然のことだ。
text 長瀬広子 photo 星野泰孝
本記事は雑誌料理王国第235号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第235号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。