震災後、それでも僕が独立を決めた理由


本記事は雑誌料理王国202号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は202号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

物件が決まり、いよいよ独立準備をスタートさせようとしたその時、東日本大震災に遭遇。いったんはあきらめかけた店の実現に向けて、再び立ち上がった中田雄介さんをインタビュー。

 昨年末、6年間シェフを務めた「ラルテミス」を退職し、今年5月のオープンをめざして独立準備を進めていました。物件は以前から気になっていた、代々木上原の新築マンション1階にある19.2坪のスペースです。家賃も値下げ交渉のうえ、なんとか契約にこぎつけ、デザイナーさんからも店舗図面ができ上がってきました。そして4月15日から工事にかかろうとしていたところ、東日本大震災が起こってしまった。まずは工事の着工をストップしてもらうことにしました。

 しばらくは何も考えられない日が続きました。先輩の中には、独立をもう一度考え直したほうがいいのではないか?と心配してくれる人もいました。テレビから流れてくる映像はあまりにも悲惨すぎて、自分の無力さを嘆き、先が見えなくなってしまったのです。

 そんなある日、ふと料理を作ろうと思い立ち、ワインを買って、自宅で久しぶりにフランス料理のディナーを作ったんですね。すると自分の中から、何かふつふつとわいてくるものがあった。落ち込んでいた気分がだんだんと晴れてきた。その時、やっぱりこれだ。自分には料理しかない!料理を作って人に喜んでもらうこと、これが自分の生き方だとあらためて確信しました。

「シャントレル」の名で7月オープンをめざす

 その後、店は7月1日オープンに向けて、準備を進めることに決めました。店名は「シャントレル」。フランスの修業時代によく採りに出かけたキノコの名前です。店舗の席数は16席で、そのうちカウンターが10席。以前勤めていた店はブラッスリー業態でしたが、今回は昼夜ともにおまかせコースを主体としたレストランを考えています。

 店内はオープンキッチンで、ボクが料理する姿がお客さんから見える設計になっています。自分の個性を伝えるためにも、今まで以上にお客さんとの対話が大切。「中田さん、今日は何がおいしいの?」。そんな声にできるだけ応えて、ひと皿、ひと皿、喜んでいただける料理を作っていきたい。それがボクの思いです。

 震災をきっかけに原点に戻り、いろいろなことを学ばせてもらいました。今は料理を通して、少しでも世の中が明るくなることを願い、がんばっていきたいと思っています。

店名となる「シャントレル」は、アンズ茸科のキノコ。仏ローヌ地方「レジス・マルコン」での修業時代、秋になると毎日採りに出かけていた。写真の籠は当時使っていた思い出の品。本はレジス・マルコンさんの料理書。

Yusuke Nakada
1972年静岡県生まれ。青山「ラ・ブランシュ」で約6年間修業後、フランスで約3年間働く。帰国後、神宮前「ラルテミス」にて約6年半シェフを務める。

シャントレル
東京都渋谷区元代々木町24-1
アブニール元代々木1F
www.chanterelle.jp

沖村かなみ・文 山家 学・写真

本記事は雑誌料理王国202号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は202号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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