肉で勝負ーその迫力に魅せられた4人のシェフ


土着の素材と対峙する食肉文化を体感して帰国、わがものとした彼の地の肉料理を日本で出し続ける料理人たち

マルディ グラ(銀座)

フレンチの本質を肉で雄弁に語る

和知徹さん

厚さ4センチはあろうかという豪快なステーキ。むきだしの盛り付けで、皿から溢れんばかりだ。このひと皿を和知徹さんは「フランス料理をリスペクトする僕からの答え」と言う。渡仏し、フランス料理にどっぷり浸かった10年間。食肉文化を体で感じ、咀嚼してきた自負もある。自分のスタイルを模索するなか、モード性の高い料理は必ず廃れると痛感した。そこからは「誰もが知っているポピュラーな料理で、いかにオリジナリティを出すか」に専念。既存のレシピに頼らず、ソースも介入させない。そんな完全オリジナルの皿を「肉の選定や熟成から、すでに料理は始まっている。食べてみて、味の違いを分かってもらえれば」。長いキャリアのなかで岩手短角牛が「一番好き」と、和知さんは胸を張る。だが「肉にも旬がある」と、年間を通しての提供にいささかの抵抗も感じている。そして今なお新しい牛肉に出合うべく、海外にまで足を運ぶという。もっぱらの興味は南米アルゼンチン。つくづく肉料理一筋の人である。

岩手短角牛のステーキ
粗塩、コショウ、オイルで仕上げるステーキ(1kg~)。手間ひまかけて作られる人気のフライドポテトは「今は封印してる(笑)」と和知さん。予約の段階で相談を。

text by Mamiko Kume/photographs by Hiroshi Fushiki

ローブリュー(表参道)

変わらず、フランス土着の豚文化を伝える

櫻井信一郎さん

「うちのメニューは日本でいうところのカツ丼や生姜焼き。フランス人が日常的に食べる定食のラインナップなんです。だから逆にごまかしがきかない」と話す櫻井信一郎さん。黒板には修業時代にバスク地方で出会った、土着的な豚肉料理が並ぶ。オープン当初からメニューはほぼ同じ。むしろ「変える必要はない」と櫻井さん。しかしいまの時代、変わらないことこそ難しいはず。「そりゃあ正直言ってお客さんの入りが少ない時は、ポーションが大きいのか?塩が強いのか?と思うこともありました。でもそこで踏ん張らないと駄目。10年後、15年後も同じ味が食べ続けられる場所を存在させたいんです」櫻井さんの口から何度も飛び出すのが、いまも師と仰ぐ「レスプリ・ミタニ」の三谷青吾さんの名前だ。「オー・バカナル」では食材と真摯に向き合う姿勢を叩き込まれた。今後について尋ねたところ「いつかハムやサラミが山ほど作れる施設を造りたい」と櫻井さんは目を輝かせた。

トマトとピーマンの煮込み ヴァントレーシュ添え
バスク地方では、いまもタマネギすら入れず、トマトやピーマン、ニンニクだけで煮込むことが多いという。香ばしく焼かれた肉厚のヴァントレーシュ(豚胸肉の塩漬け)の上には卵のフライをのせて。

text by Kanami Okimura/photographs by Hiroshi Fushiki

レストラン・キノシタ(代々木)

自分の手から生まれる料理に責任をもちたい

木下和彦さん

厚さ4センチはあろうかという豪快なステーキ。むきだしの盛り付けで、皿から溢れんばかりだ。このひと皿を和知徹さんは「フランス料理をリスペクトする僕からの答え」と言う。渡仏し、フランス料理にどっぷり浸かった10年間。食肉文化を体で感じ、咀嚼してきた自負もある。自分のスタイルを模索するなか、モード性の高い料理は必ず廃れると痛感した。そこからは「誰もが知っているポピュラーな料理で、いかにオリジナリティを出すか」に専念。既存のレシピに頼らず、ソースも介入させない。そんな完全オリジナルの皿を「肉の選定や熟成から、すでに料理は始まっている。食べてみて、味の違いを分かってもらえれば」。長いキャリアのなかで岩手短角牛が「一番好き」と、和知さんは胸を張る。だが「肉にも旬がある」と、年間を通しての提供にいささかの抵抗も感じている。そして今なお新しい牛肉に出合うべく、海外にまで足を運ぶという。もっぱらの興味は南米アルゼンチン。つくづく肉料理一筋の人である。

仔羊のノワゼット 瞬間燻製 その仔羊のアッシェパルマンティエを添えて
仔羊をローストし、脂を巻いて燻製に。こうすることで、くせのある仔羊の脂がすっきりした味になるという。ソースは仔羊のフォンとバジリコ、ニンニクのピュレという仕立て。

text by Kimiko Anzai/photographs by Hiroshi Fushiki

ル・ブルギニオン(六本木)

流行の店になるより「居心地のいい店」でありたい

菊地美升さん

盛況ぶりは相変わらず。お客は皆、心地よさそうに料理を楽しんでいる。有名だからではなく、本当にこの店が好きで来ていている、といった体だ。お客が帰る時には、菊地さんはいつも入り口に立ち、後姿が見えなくなるまで見送る。「お客さまの喜ぶ顔を見るのが何よりうれしいから」と笑う。オープンから7年、フランスの郷土料理を洗練された形で表現した料理は、菊地さんの優しい人柄とあいまって多くのお客の心をとらえて離さない。独特の人なつこい笑顔も〝味〞なのだ。「でも、いつも自信満々で作っているわけではありません。自分の料理はこれでいいのか、ずっと自問自答してきました」。それはすべて、今の店をよりよくしたいという一心から。料理もサービスも、もっと充実させたい。だから、あえて2店舗目は出さなかった。「それができる人はいいけど、僕はもう少し、自分で守れる範囲を充実させたい。今はいろんな食材に挑戦して、さらに上の料理をめざしたいんです」

ブレス産仔鳩、半身のローストラングスティーヌのゴマ風味 甲殻類のソース
イメージしたのは“クラシックを現代に”。血のソースではなく、甲殻類のソースと合わせることで、軽やかな味わいのひと皿に仕上げている。鳩肉はジューシーで、繊細なうま味が舌に残る。

text by Kimiko Anzai/photographs by Kazuo Kikuchi

本記事は雑誌料理王国156号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は156号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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