1913(大正2)年、エスコフィエのもとで修業に励んだ秋山徳蔵が帰国、宮内省大膳寮に就職する。
この年に英国生地の輸入商で香港、シンガポールと飛び回っていた竹山周吉が、フランス帰りの本格的なシェフを招いて東京市市谷台町に洋食店「台町食堂」を開く。
当時、「食堂」はハイカラな新しいスタイルのシンボルだった。周吉の息子の正次は、秋山徳蔵の薫陶も得た。精養軒や万平ホテルでも修業をした。太平洋戦争のあと、正次は店をいまの墨田区吾妻橋に移し、「レストラン吾妻」とした。
この老舗のレストラン吾妻は、現在三代目の竹山正昭さんがその厨房を守る。日本の洋食史の正統を継ぐ名店は、故中村勘三郎、伊集院静など多くの食通をうならせる。
「デミグラスソースは、親父の代のものをベースにしています。ゆるぎない日本の洋食を守り続けていきたいと思います」。そう語る正昭さんのかたわらには、四代目の息子・明良さんがひかえる。
三代目となる竹山正昭さんが、〝天皇の料理人〞から受け継いだスペシャリテ。「肉の旨さは産地では図れない。一頭、一頭の固体差による」と言う正昭さんの目にかなった黒毛和牛のアバラ肉を、赤ワイン1升(1.8ℓ)で2時間煮込む。ベースになるデミグラスソースも父譲りだ。芳醇なソースの香りと肉の旨味が至福のひとときを約束する。冷たいポテトサラダがビーフシチューの味わいを引き立てる。日本の洋食の王道が今に受け継がれている。
材料(5人分)
牛アバラ肉(脂身20%以下)…1㎏/デミグラスソース(ベース)…900㏄/赤ワイン…1本/トマトピューレ…360㏄/タマネギ、ニンジン、ブーケガルニー…各20ℊ/ニンニク …少片
● シチューソース
煮上りソースをシノワで漉したソース…200㏄/デミグラスソース(ベース)…100㏄/マンゴチャツネ…25ℊ/塩、コショウ、赤ワイン、マデラ酒、リーペリンソース、生クリーム…各少々
● ポテトサラダ
ポテトマッシュ(ドライフレークでも)…160ℊ/キャベツ(短冊切り)…250ℊ/塩、コショウ、手作りマヨネーズ…各45ℊ/ボイルニンジン(薄切り)…70ℊ/セロリ葉(5㎜幅)…少々/スライスオニオン…70ℊ
作り方
レストラン吾妻
東京都墨田区吾妻橋2-7-8
03-3622-7857
木の温もりに包まれた落ち着いた雰囲気の店内。ここ墨田区吾妻橋に店を構えたのは戦後から。
長瀬広子=取材、文 阿部吉泰、星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国第228号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第228号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。