「見る料理」といわれる日本料理。料理の印象を大きく変える“器と料理の関係”について、「新宿割烹 中嶋」の中嶋貞治さんが提供するひと品から読み解く。
芸術家だけでなく美食家として名を馳せた北大路魯山人主宰の「星岡茶寮」の初代料理長を務めた、中嶋貞治郎さんを祖父に持つ中嶋貞治さん。現在は、父・中嶋貞三さんが分家独立した「新宿割烹 中嶋」の二代目として店に立ち、四季を捉えた料理で新旧のお客さまの心をつかんでいる。「最近では魯山人に興味を持って来る人もだいぶ減り、僕の料理を求めて来店していただけるようになりました」
自らの足で毎朝築地に出向き、目利きで選んだ旬の食材に手を加える。近年ではオリーブオイルやバルサミコ酢などの洋調味料も取り入れ、時代に即した進化を遂げているのも特徴。
常連客を魅了するのは、料理の味わいだけではない。料理と器の共演による、目で楽しむ一品。それが同店で過ごすひとときを、忘れがたいものにしてくれる。
「器は素材、形、重さ、質感など多様。普段使いの器も使いますし、作家が手づくりした品も取り入れ、料理に彩りを添えるようにしています」
常連客の「地味な一流でいてほしい」とは、素材の選び方と技術一本で勝負する、飾らない中嶋さんの料理に敬意をこめた言葉。派手な“ショー”こそないが、日本の粋、奥ゆかしいエンターテイメントがここにある。
器と盛りつけの気配りが和の心
料理の彩りと器の色、余白のバランスにより、目で楽しむひと品を表現。白い器は爽やかな、赤や黄は温かみのある印象を与えるため、料理の温度や使う素材で合わせる器を考えるとよい。また余白の表現は季節で異なり、夏は料理6に対し余白4、冬は7対3がよいとされる。
現在、北大路魯山人作の器は使用していないが、要望があれば現物を見ることもできる。陶芸家・高野榮太郎さんや松林玄衛さんなど、現代作家による器をはじめ、普段使いできる有田焼なども使用する。
名残のハモと走りのマツタケを合わせ、季節の変わり目を表現した「鱧松茸碗」。漆塗りの碗の蓋は黒と赤があり、男性客と女性客で色を変えるなどの遊び心も。
コースの最初に提供する「からし豆腐」。寄せ豆腐の中にからしを忍ばせ、その刺激で暑さを吹き飛ばすひと品だ。白い器で提供
イチジクを丸ごと蒸し、上から玉味噌をかけた「いちじくのふろふき」。深さのあるごはん茶わんに盛る。黒の漆塗りを使い、全体的に引き締まった印象に。
滋味深い味わいが特徴的な「菊の花の浸し」。キクの黄色、青菜の緑、キノコの白といった彩りの美しさを活かし、器はシンプルな色に。器の挿し色が、全体を引き締める。
秋ナス、新レンコンを使った「茄子と蓮根の柚子胡椒マリネ」。少量を盛るため、小鉢で提供。模様の入った器にすることで、シンプルな料理も賑やかに見せてくれる。
1956年東京都生まれ。京都で修業ののち、1980年に「新宿割烹 中嶋」の店主に就任。ハイアットリージェンシー東京の「佳香」「みやこ」の調理顧問、一般社団法人シェフードの特別会員。
新宿割烹 中嶋
Shinjyuku Kappou NAKAJIMA
東京都新宿区新宿3-32-5 日原ビルB1F
☎03-3356-4534
● 11:30~14:00(コース13:30LO、
定食13:45LO)、17:30~21:30(20:00LO)
● 日、祝休
● コース 昼5000円~、夜8000円~
● 32席
www.shinjyuku-nakajima.com
虻川実花=取材、文 林 輝彦=撮影
本記事は雑誌料理王国290号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は290号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。