食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

名匠のスペシャリテ「レストランタテルヨシノ」吉野建さん


時代を超えて愛され続ける名匠のスペシャリテがある。
世界の食通をうならせる「レストラン タテル ヨシノ」のオーナーシェフ吉野建さんと、「子ウサギ背肉のファルシー 赤ワインソース」をご紹介します。

強豪ひしめくパリ8区が戦いの舞台

喜界島で生まれ育った私には、質実剛健を旨とする薩摩隼人の血が流れています。思ったことを胸に留めておくこともできないし、行動を起こさなければ気がすみません。1992年、2度目の渡仏は、そんな私にとって、まさに「勝負」のパリ行きでした。
「私は闘うためにパリに来た」当時は、よくそんなことを言っていたものです。でも、現実は残酷です。勝負をする「店」というステージを、パリで持つことができない。バブルという大きな時代の波に翻弄され、大企業に振り回されて、私は4年半という貴重な時間を無為に過ごすことになりました。私がようやくパリで店を持つことができたのは、1997年のことです。

レストラン「ステラ マリス」。強豪ひしめくパリ8区に立つこの店が、私の闘いの舞台となりました。ここでも現実の厳しさに直面し、くじけそうになったこともあります。しかし、「テロア(大地)の料理」をコンセプトに決めてからは、迷いがなくなりました。閑古鳥が鳴いていたオープン当初が嘘のように、少しずつでしたが、お客さまが来てくださるようになったのです。パリのお客さまは、食べることに貪欲です。舌も肥えています。お世辞を言うこともありません。そんなパリで、オープン翌年から「星にもっとも近い店」と言われていました。

自然や風土に逆らわず、大地の恵みを皿へ

ジョエル・ロブションからも「君の料理は星に値する」とも言われていたので、正直、私なりに自信もあったんです。でも、獲得までに9年の月日を要しました。「ステラ マリス」が一つ星をとったのは、2006年のことです。すでに、東京・港区の芝パークホテルに「キュイジーヌフランセーズ タテルヨシノ」(現レストラン タテル ヨシノ)を開いていた私にとってそれは、大きな節目となりました。現在、東京にある3つの「レストラン タテル ヨシノ」も星をとっています。それはとてもありがたいことですけれど、一方で、ウチの料理をおいしいと言って食べてくださるお客さまの笑顔もまた、私の勲章だと思っています。
料理人になりたいと思ったとき、修業のためにパリへ渡ったとき、日本で店を出したとき、パリへ闘いに行ったとき、再び帰国したとき……。料理人人生の節目節目で、私はさまざまな料理と出会い、多くの料理を生み出してきました。

6年ほど前から始めた「子ウサギ背肉のファルシー 赤ワインソース」は、再び日本に軸足を置き、新たな未来を築いていくと決めた、決意表明にも似たスペシャリテです。時代は進み、お客さまも変わる。私も料理も、時代のニーズとともに変化し、進化していく必要があります。
私はよく、「『健康』『素直』『笑顔』があれば、世界中どこでもやっていける。それに、『感謝』『反省』『勤勉』が加われば無敵だ」と言っています。若い才能も、どんどん育っていって欲しいですからね。そして、もしチャンスがあるのなら、もう一度、パリで店をやりたい。そのときは「闘い」ではなく、「楽しさを分かち合う」ために、私を育ててくれたパリへ戻りたいと思っています。

子ウサギ背肉のファルシー 赤ワインソース
ポイントは皿の中央に鎮座するプリン型に固めたモモ肉の赤ワイン煮。周囲には、食感の異なる背肉や骨付きの背肉、腎臓、レバーをちりばめた。まさに〝子ウサギずくし〞のひと皿だ。「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル」最優秀賞に輝く吉野さんならではのスペシャリテである。

吉野 建 Tateru Yoshino
1952年、鹿児島県喜界島生まれ。79年に渡仏し、「ジャマン」などの名店で修業。 84年に帰国し、89年、小田原に「ステラ マリス」をオープン。高い評価を得ていたが、再び渡仏。97年、「ステラ マリス」を開く。98年には「テット・ド・ヴォー 海ガメ風」が仏誌「ル・モンド」に載り、評判となる。2000年には、優れた野ウサギ料理に与えられる「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル」最優秀賞を受賞。03年、東京・港区に「キュイジーヌ フランセーズ タテル ヨシノ」(現レストラン タテル ヨシノ)を開く。現在は、都内に3店舗を展開する。

text 山内章子   photo 依田佳子

本記事は雑誌料理王国2013年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2013年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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