明治の味を復活。50年以上の時を経て蘇った“カツ丼”


人形町は「洋食の街」という顔も持つ。「小春軒」は中でも100周年を超える老舗だ。今では有名な「小春軒特製カツ丼」は初代が考案した名物だったが、戦後に絶滅。50年以上の時を経て蘇った“帰ってきた名物”だ。

山県有朋のお抱え料理人だった小島種三郎さんと奥方の春さんが2人で開いた店だから「小春軒」。1912(明治45)年の創業以来、家族経営で明治の味を受け継いできた。厨房では揚げ物担当の小島祐二さん(4代目)と、焼き物担当の祐太さん(5代目)が腕を振るい、3代目の幹男さんがそれをサポート。サービスは皆から「おばあちゃん」と呼ばれる幹男さんの妻、絹子さんが切り盛りする…という具合だ。

①下ゆでした角切りのジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、ピーマンを、デミグラスソース入り割り下で約10分間煮込む。
②考案された当時は卵が貴重品だったことから、丸々1個を使っていることが分かるよう溶き卵ではなく目玉焼きにしたという。
③野菜を煮込んだ割り下の鍋に揚げたてのロースカツを投入。約5分間煮込んで味を入れるが、カツの食感はクリスピーなまま。
④豚ロース肉をあらかじめ食べやすい一口サイズに切り分けてから衣を付けて揚げたカツは、1人前で6辺入る。揚げ油はラード。
⑤すべての具が同時に完成するよう計算。ご飯の上には、一口カツ、半熟の目玉焼き、割り下で煮込んだ野菜の順に重ねる。
⑥4代目の小島祐二さん。小島家は関東大震災や戦争で店を休んだ時期はあっても、明治から同じ場所で営業を続けて来た。
「小春軒特製カツ丼(しじみ汁付)」(1,300円)。甘すぎず輪郭がはっきりした割り下の味が染みる。初代が掲げた家訓の通り「気どらずおいしく」愉しみたい。

当時は芝居街・花街として栄えていた人形町。芸者や役者や文化人など流行の先端にいた人々から愛され、もしかしたら山県有朋も味わっていたかもしれない「小春軒特製カツ丼」。初代が生み出したその名作がメニューから消えた理由はわからないというが、祐二さんが修業先から戻ったことをきっかけに、小春軒では「特製カツ丼復活キャンペーン」が始まる。初代のカツ丼を唯一食べたことがある幹男さんの記憶を手掛かりに、親子で試作を重ねて初代の味を再現した。ロースカツはひと口サイズ。デミグラスソースを混ぜた割り下で野菜の角切りを煮て具とする。そして絶妙な半熟に仕上げられた目玉焼きがトップに君臨…SNSが誕生する100年前から“映え”を意識していたかのようだ。

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小春軒

東京都中央区日本橋人形町1-7-9
TEL03-3661-8830
月~土 11:30 ~ 14:00
月~金 17:00 ~ 20:00
日祝休

text 西尾悠希 photo 鈴木泰介

本記事は雑誌料理王国2020年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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