1991年から始まった牛肉の輸入自由化。あれから30年たった今オーストラリア産と米国産が主流だった輸入牛肉市場に変化が起きている。世界の肉食文化圏で食べられてきたおいしい肉が、日本でも食べられるようになっているのだ。
91年の輸入自由化から現在に至る輸入牛肉の歴史を語る上で、忘れてはならないのが2000年代初頭に起こったBSE(牛海綿状脳症)問題だ。この問題を一つの契機として、ヨーロッパを中心としてアニマル・ウェルフェアの取り組みが盛んになった。例えば、病気発生のリスクが高くなる密飼いをやめ、放牧など広々とした環境で育てること、そして抗生物質などの薬に頼らない飼育をすることなどだ。
2013年にアイルランド、フランス産の牛肉輸入が再開、イタリア産は16年に再開されて以降、現地でしか食べられなかった牛肉が続々と上陸している。
今回紹介する牛肉は、放牧期間が長く健全に育った赤身肉。18年に輸入が開始されたイタリア牛の希少種キアニーナ、完全放牧の風味豊かなアイルランド牛、1頭もBSEが出ていないクリーンな地で育てられたNZ産グラスフェッドビーフだ。これらを、厳選赤身肉の食べ比べコースも提供している「ヴァッカロッサ」の渡邊雅之シェフが薪火焼きした。日本では未体験だった赤身肉の新世界へ、ようこそ。
フィレンツェの貴族たちに愛されてきた「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」といえば、キアニーナ牛のTボーンまたはLボーンステーキのこと。トスカーナ州キアーナ渓谷で育つ白牛で、生産頭数は月約500頭、その中でIGP認定は約半数と言われている。
「フィレンツェでは、ビステッカ用として若齢牛が好まれる」と渡邊シェフ。余韻のある赤身のうま味が味わえるキアニーナのほか、ピエモンテーゼなどもビステッカ用として人気だ。
キアニーナ牛は放牧で育てた後、肥育時に牛舎に入れ、大麦やトウモロコシなどの穀物を少量与える。ただ日本と比べると、粗飼料と言われる牧草や麦わらの量が圧倒的に多い。
国土の約8割が牧草地のアイルランド。土壌は石灰質で天然のミネラルが豊富な大地で育った牧草を食みながら育つのが、アイルランドの牛たちだ。
特徴は何と言っても恵まれた自然環境、とりわけ清浄な大気と豊富な水資源だ。広大な大地を自由に動き、ストレスのない環境で牧草のみで育った牛の肉(グラスフェッドビーフ)は、オメガ3脂肪酸、ビタミンA、ビタミンEが豊富に含まれている。
ちなみにアイルランドではアンガス、ヘアフォードなどやそれらの交雑種が育てられている。日本に輸入されているアイルランド産牛の月齢は26ヶ月齢前後が中心。相手国のニーズに沿った牛肉を輸出しているようだ。
ニュージーランドは温暖多雨で、豊かな自然環境に囲まれた島国だ。国土の半分以上が牧草地という恵まれた環境で、BSEや口蹄疫などの家畜の病気が一度も発生していない稀有な国でもある。
完全放牧飼育が主流のため牧草の研究も盛んで、土壌と牧草の専門コンサルタントが全国の牧場で良質な牧草を育てるように指導をする。全土に渡りクローバーやライグラスにオオバコなど、マメ科とイネ科の栄養価の高い牧草を食べて育っている。当然ながら成長促進ホルモンや遺伝子組み換え飼料も不使用の、エシカルでクリーンな畜産が特徴だ。
主要品種はアンガス牛やヘレフォード、それらの交雑種もよくみられる。
ヴァッカロッサ
東京都港区赤坂6-4-11 ドミエメロード1階TEL 03-6435-5670
ステーキ用牛肉やパスタソースなどの
オンラインショップも開設
https://vaccarossa.theshop.jp/
text 山本謙治 photo sono、山本謙治
本記事は雑誌料理王国2021年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。