いつも独創的なイタリア料理で食べ手を魅了する森山雅彦さん。「パスタはソースから着想します。ブロードは使わないで、食材のうま味を軸に、何と煮込めばよりうま味を引き出せるかを考えていきます」
ソースが決まると、それに絡める麺を考える。「豚のモツ」のうま味を生かしたソースには「黒七味を練り込んだファルファッレ」を。麺を噛むたびにスパイスのように黒七味を効かせる小粋な仕立て。「和」に振りたいのではなく、何をアクセントにしてうま味の軸にするのかを重視する。
独立して間もない頃、粕汁の滋味深さをイタリア料理に応用できないかと思った。粕汁にサケを入れることがあるが、酒粕と動物性たんぱく質のという「味の骨組み」を取り入れたかった。欲しいのは酒粕の「風味」ではなく「うま味」だ。酒粕は、絞り立ての物は白っぽく、時間を置くと発酵が進み、茶色く変色していく。寝かした酒粕は奈良漬けのような発酵臭がする。ビタミンB群やアミノ酸含有量も増加して、うま味も強烈だ。
だから、合わせる動物系のタンパク質は豚のスネ肉と決めた。しかしこの老成の酒粕と合わせるには、肉も味の濃い豚でなければ負けてしまうことも分かった。塩漬けにしてうま味を強化してから煮込んでいく。
ふたつのパンチの効いた味をつなぐのは甘みのある野菜。冬場は白菜、この時期は新タマネギだ。さらにもうひとつの架け橋は塩麹。肉を柔らかくまろやかに、酒粕の角も丸くしてくれる。以上の品、シンプルな構成で煮込んだパスタソース。タマネギが溶けてトロトロに。酒粕の風味は煮込むことで消えたが、こっくりと奥深いうま味の波は何層にも折り重なって押し寄せてくる。唯一無二のパスタソースが完成した。
タマネギは煮くずれてとろみと甘みが出ている。どろっとしたソースがガルガネッリの溝によく絡む。酒粕の香りは飛んでいてほとんど感じられないが、ソースのうま味として重要な役割を果たしている。
山伏豚スネ肉(骨を抜いたもの)…1㎏/新タマネギ…4個/酒粕…150g/塩麹…50g/水…適量/塩、コショウ…各適量
仕上げ
トウガラシを練り込んだガルガネッリ(1皿分)…60g/グリーンピース…適量/オリーブオイル…適量
Masahiko Moriyama
1981年島根県生まれ。高校卒業後、京都の大和学園調理し専門学校へ入学。卒業後は京都市内のイタリア料理店数軒で修業。25歳で独立。三条新町のカウンター主体のオステリアを開く。2012年5月に京町家を改装した現店舗へ移転。隻数を増やした。
オステリア コチネッラ
Osteria Coccinella
京都府京都市下京区高倉通仏光寺入ル 新開町397-2
075-365-4300
三好彩子=取材、文 香西ジュン=撮影
本記事は雑誌料理王国2014年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。