シンプルだからこそ奥深い、トップシェフが作る「カチョエペペ」それぞれの形


11月20日と21日、東京の服部調理師専門学校で開催されたイタリア料理の祭典「カチョ・エ・ペペ・デー」。

主催者であるアントネッラ・ボンディ氏と、その依頼を受けたウェブマガジン「サポリタ」の池田匡克・愛美夫妻が「シンプルで身近な食材で、イタリア料理の根本ともいえる味のある『カチョ・エ・ペペ』をテーマに、温故知新、未来のイタリア料理を考えるきっかけにしてほしい」と今年初めて開催した。

11月22日〜28日の日程で行われるイタリア大使館主催の、イタリア料理週間の一環のイベントでもある。

池田夫妻によると、カチョエペペというと、日本では一般に、滑らかにチーズを乳化させた「レストラン仕様」のものが知られているが、実は本場イタリアでは、家庭やカジュアルなお店では、卓上に茹でただけのパスタが皿に盛られ、胡椒と粉のチーズがどん、と出され、お好みでかけて食べる、という自由なスタイルが主流だという。

そんな風に楽しみ方も自由自在なカチョエペペを媒体に、イタリア料理の奥深さを探って行こう、というコンセプトのイベント。本来はイタリアから多くのシェフも来日予定だったが、コロナ禍で来日が難しくなり、国内で活躍するシェフに焦点を合わせた内容となった。

開会に先立ち、服部栄養専門学校の服部幸應校長が、「30年前に、(現代イタリア料理の父とも呼ばれる)グアルティエーロ・マルケージ氏を蕎麦屋にお連れし、冷たい蕎麦を召し上がっていただいた。しばらくして、イタリアのマルケージ氏の店に行くと、ボッタルガをかけた冷たいパスタをだしてくれ、冷製パスタはそれからイタリアで大ブームとなった」と、日本とイタリアの交流が食文化に与えた事例を紹介すると、イタリア料理アカデミー駐日代表のエマニュエラ・オリギ氏も「日本のイタリア料理のシェフたちのアプローチはとても革新的。日本におけるイタリア料理界はより進んでいくだろうし、日本とイタリアの対話が、素晴らしい結果を生むのでは」と未来への期待を語った。

2日間にわたるイベントでは、7店のシェフがそれぞれのスタイルで「カチョエペペ」を表現。パスタとチーズ、胡椒。ごくシンプルな材料だが、その作り方は全く異なる。オリジナリティ際立つ、トップシェフのアプローチをご紹介していこう。

高桑靖之(オステリア・セルヴァッジーナ)

ジビエ」を意味する「セルヴァジーナ」という名前通り、猟期には高桑氏自らが仕留めた野鳥を提供、さらに、チーズも自家製している。羊乳と胡椒、サフランで作るハードチーズ、ピアチェンティーヌ・エンネーゼを、日本ではしぼりたての羊乳が手に入りづらいため、代わりに牛乳で作り、3ヶ月間熟成。
パスタの茹で汁で細かく刻んだこのチーズを溶き、固体の部分を捨て、チーズウォーターのようになった乳化した液体部分に、更にチーズを加えて、チーズソースを作る。そこにパスタを加えて和え、最後に荒く潰してから、空炒りした胡椒を散らした、「エンナ風カチョエペぺ」。

小池教之(オステリア・デッロ・スクード)

クラッシックなスタイルで知られる小池氏だが、独自の工夫を重ねた作り方が光る。ひいた胡椒をフライパンで熱して、茹で汁を入れ、しばらく煮出して「胡椒のブロード」を作る。これにより、胡椒の香りがパスタ全体に行き渡るようになる。
さらに、乳化の補助剤としてオリーブオイルを入れ、冷たい鍋に入れて温度を下げる(もしくは温度が下がるまで待つ)。温度が60度以上だと、チーズのタンパク質が変成し、糸を引いてしまうため、クリーム状に仕上げるためには、それ以下の温度で混ぜることが必要なため。そこに、1%の塩水でゆでて粗熱をとったパスタを加えて混ぜて仕上げた 。

能田耕太郎(ファロ)

ローマの一つ星「ビストロ64」のオーナーシェフでもある能田氏が作るのは「ネオクラシコカチョエペペ」。
「ネオ」なのは、調理技術。圧力鍋を使うことで、乾燥パスタの袋表記の半分の時間で茹であげられる方法を紹介。乾燥パスタを、3倍の重さの水、1.3%の塩、10%のバターと共に圧力鍋に入れ(圧力鍋のサイズが小さい場合は、パスタを折って完全に水にひたす)て、圧力がかかってから表記の半分の時間加熱し、火から下ろしてから流水などで急速冷却してから蓋を開け、ペコリーノは塩分が強いため、ペコリーノ7に対してパルミジャーノ3の割合でブレンドした、乾麺と同重量のチーズと絡め、最後に胡椒をかけて仕上げる。

カチョエペペは「チーズと胡椒」の意、パスタだけでない、様々なカチョエペペの形をご紹介していこう。

平木正和(アルヴァ・アマン東京)

平木氏は、今年、山梨県に借りた田で自分で育てた、イタリアのカルナローリ米と日本米を掛け合わせた品種の米で、リゾットを作ったリゾット版カチョエペペ。
「試作時に皿に盛ったリゾットが砂浜のように見えた」ことから、自身が、5つ星ホテルの料理長として長く働いたヴェネツィアの名物、イカ墨とムール貝、さらに自らが訪れた有機農家のレモンを使って作った自家製レモンコンフィで、酸味の効いた黒いリゾットでムール貝の殻を表現、その上にムール貝の身を乗せて、砂浜の景色を再現したような、目にも美しいリゾットを作成。

笹森通彰(オステリア・ダ・サスィーノ)

チーズやワインを自家製することでも知られる、弘前の名店、「オステリア・ダ・サスィーノ」の笹森氏は、市販のモッツアレラチーズを使って、カチョエペペ風ブッラータを作る方法をデモンストレーション。
1センチほどにスライスしたモッツァレラをボウルに入れ、熱湯を注いで柔らかくしてから、まとめて伸ばし、中に煮詰めた生クリームと胡椒に、刻んだトリュフを加えたものを包んで、氷水の中で冷やしてチーズ&胡椒で「カチョエペペ」の組み合わせは守りつつも、オリジナルの世界観を表現。

グラ&ダニ(クランデスティーノ)

中目黒のワインバー、クランデスティーノが作ったのは、ローマで20年ほど前から作られ始めた、小麦粉に大豆と米の粉を混ぜた生地を長時間発酵させて作ったさっくりとしたピザ、「ピンサ(PINSA)」カチョエ「ペペぺ」。
カチョエペペに、さらにもう一つの「ぺ」が加わったというユニークなネーミングは、イタリア語でPeraと呼ばれ、ピエモンテ州ではペコリーノチーズと定番の組み合わせの洋梨を加えているから。焼き上げた生地に、クリーム状のペコリーノチーズを塗り、もう一度焼いてから、サフランと胡椒の入ったシチリア島のペコリーノ「ピアチャンティーヌ」に、ペコリーノ、タスマニアペッパーをかけて。

茂垣綾介(アクオリーナ)

大量生産をせず、出来立てで、より高品質な「ガストロノミージェラート」を追求する、「アクオリーナ」の茂垣氏による、カチョエペペをイメージしたジェラート。
「ヴェネツィアのペコリーノ」の別名を持つアジアーゴチーズで作ったジェラート、同じ地域のアマローネの搾かすで作ったグラッパと洋梨のジェラートを組み合わせ、胡椒をかけて。
「ジェラートは冷凍だから長持ちすると考えられがちですが、本当のアーティザナルなジェラートは、作り立てのふわりとした食感が命」と茂垣氏。ベストの温度だという−12度に調整したジェラートは、程よい冷たさと、滑らかな口溶けが魅力。

この他にも、ハインツ・ベック氏やマッシモ・ボットゥーラ氏など、多くのイタリア人シェフも愛用する、天然香料で作った「料理用フレグランス」、アントネッラ・ボンディの紹介や、イタリアのクリスマスケーキ「パネトーネ」の試食会なども行われ、イタリアの食の魅力を幅広く紹介する場にもなった。

実はこのカチョエペペデー、「オステリア・フランチェスカーナ」「ラ・ペルゴラ」など、著名なイタリアのレストランのみならず、「ザ・ファット・ダック」(イギリス)や「イレブン・マディソン・パーク」(ニューヨーク)など、世界各国のトップレストランでも、カチョエペペをテーマにした特別メニューを期間限定で提供する予定があるのだとか。

シンプルで根源的だからこそ、それぞれのシェフのビジョンやスタイルが見えてくる。そんな、カチョエペペデー、今後のイベントにも注目だ。

text・photo:仲山今日子

仲山今日子
ワールド・レストラン・アワーズ審査員。元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。


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