食の未来が見えるウェブマガジン

「変わらない」ということは常に進化していること。「ファン」こそが店の支え


開店から17年、一度も値上はなし

「秘訣なんて何もないよ。お客様に喜んでいただくために、ただただ頑張っているだけ」と落合務さんは豪快に笑う。

元祖予約の取れない店。それは、17年経った今も変わらない。開店当初に「コース料理3800円」と決めたのも、「一人でも多くのお客様に喜んでもらいたい」「自分の料理を食べていただきたい」という一心からだった。

コースにつくフォカッチャは、いつも厨房でスタッフが焼いている。「塩味がほどよくきいておいしい」とお客様の評価も高い。

開店当初から
セットメニュー3800円

1990年代半ば、落合さんはすでに「3800円のコース料理」を考えていたと言う。「当時、僕がシェフを務めていた『グラナータ』では、1万円、1万5000円のコースが普通だった。でも、これからは、もっと気軽にイタリアンが食べられるトラットリアの時代が来るんじゃないかと思ったんです。それで、3800円でコース料理が食べられるトラットリアを出そうと提案したんだけれど、結局、その構想は実現しませんでした」


だからこそ、自分の店を出すときには、「プリフィックスメニュー3800円」にこだわった。しかも、追加料金は一切なし。「プリフィックスと謳いながら追加料金を取るようなことはしたくなかった。メニューによって値段が変わってしまうなら、アラカルトと同じじゃないか。それでは、お客様にも申し訳ない」

「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」では、クリスマスシーズンになると、「店からお客様へのプレゼント」として、高級食材を使った料理がメニューに並ぶ。もちろん、追加料金はなし。赤字覚悟の出血大サービスだ。「でもさ、クリスマスシーズンなんて、何日間かのこと。それでお客様に喜んでいただけて、『またベットラへ行こう』と思っていただければ、それがいちばんいいことでしょう?目先のことばかりにとらわれず、トータルで考えることが大事だと、僕は思います」
「お客様のためになること」「お客様に来ていただくこと」こそが、シェフのトップ・プライオリティだ。

料理が旨く作れるのは当たり前
プラスアルファの魅力が大事

その裏には、苦い経験がある。「イタリア修業を終えて帰国し、新しくオープンする『グラナータ』のシェフを任されたんだけど、まったくお客様が入らない。それが1年以上も続き、僕は生涯で初めて、2度も胃潰瘍になりました。本当に辛かった。その経験があるから、僕は『お客様に来ていただく』ことにこだわり続けているのかもしれない」

とはいえ、どこかに〝成功の方程式〞があるわけではない。「僕だって分からないし、いまだに試行錯誤の連続。ただひとつ言えることは、料理が旨いだけじゃダメということ。ご飯をおいしく作れる人間がレストランを開くわけだから、料理が旨いのは当たり前。プラスアルファが必要なんです」

それが何かは店によって違う。「だから、自分で考え、努力して店の魅力を見つけ出し、磨いていくしかないと思う」

新店ができれば、人はそちらへ向かう。でも、ウチの店に戻ってきてくれるお客様もいる、と落合さん。「ベットラに戻ってきてくれる人、つまりファンをいかに増やしていくかが重要だと思う」

ファンは、長く店を愛してくれる。「ただし、そんなファンの愛情にあぐらをかいちゃいけない」

昔からのファンに「ここは変わらないね」と言われる。しかし、本当に変わっていなかったら「古くなっている」はずだ。「お客様に『変わらない』と思っていただけるほどに、僕らも進化していかないといけない。僕だって、いまだに料理の勉強をします」

若いシェフに、「その料理、旨そうだね。どう作るの?」と教えてもらうこともある。オープンから17年間、「予約の取れない店」を続けている秘密があるとすれば、それは「たゆまぬ努力」だろう。「その『予約の取れない店』という〝冠〞が、大事なんです。そのおかげで僕は、テレビに出させてもらったり、企業の商品開発に携わらせてもらうなど、さまざまな仕事をさせてもらっています。3800円という価格設定で、あれだけの料理を出すのは、正直、厳しい。でも、それが『予約の取れない店』のひとつの要因になっているのだから、それは死守する意味があるんです」「3800円」に込められた料理人としての哲学は、深く潔い。

成功の条件1
女性のお客様が来店しやすいこと

女性は情報に敏感で、3人、4人と女性同士で連れだって外食する人が多い。その女性客に「おいしい」「感じのいい店」と思ってもらえれば、新しい客を伴ってまた来店してくれる。口コミも広がる。「男性客は、そういう女性客に連れてこられる場合が多いんです。だから、まず、女性のお客様が来店しやすいようにすることが大事」と落合さんは話す。

成功の条件2
経済効果はトータルで考えること

クリスマスシーズンなどに特別メニューを加えれば、原価率は跳ね上がり、1日、1週間といった短期間では赤字になるかもしれない。しかし、長い期間で見れば、客が増え、「予約の取れない店」という評判を得ることにつながる。それが、新たなビジネスに結びつく可能性もある。だからこそ、目先の利益だけでなく、収支決算は大きく広い目で見ることが大切なのだ。

成功の条件3
自ら市場へ出かけ、売り手と懇意になる

「原価計算したことはないけれど、自分で市場へ出かけて行って、売り手とのコミュニケーションは欠かさなかった」と落合さん。顔見知りになれば、まけてくれることもあるし、余った食材をタダで分けてくれることもある。原価も分かってくる。料理のヒントを得る場合もある。良い食材を安く仕入れるためには、自ら市場へ足を運び、売り手と懇意になって情報交換することは大事だ。

「わざわざ来てくださるお客様は、ありがたいよね。だから、絶対に手は抜けない」と落合さん。

「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」開店当日の落合さん(中央=当時50歳)。イタリア人客も多かった。

ラ・ベットラ・ダ・オチアイの歩み

1997年9月17日
・「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」が銀座にオープン。

オープニングパーティーには、多くの人たちが集まった。

1998年10月
・14カ月先まで予約満席となる。

1999年
・2カ月先までの予約制に。

2002年7月
・「ラ・ベットラ・ビス」開店

2003年1月
・「ドルチェ・ラ・ベットラ」開店

2007年4月
・「ラ・ベットラ ナゴヤ」開店

2011年6月
・「ラ・ベットラ 池袋」開店

2012年7月
・「ラ・ベットラ 富山」開店

1947年東京都生まれ。76年にフランス料理の修業のために渡仏するも、イタリア料理に魅せられて宗旨替え。3年間イタリアで修業し、82年に東京・赤坂「グラナータ」のシェフに。97年「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」を開く。日本イタリア料理協会会長として後進の指導にも尽力する。

ラ・ベットラ・ダ・オチアイ
LA BETTOLA da Ochiai
東京都中央区銀座1-21-2
☎03-3567-5656
● 11:30~14:00LO 18:30~22:00LO(土・祝日18:00~21:30)
●日、第1・3月休
●コース 昼1200円~ 夜3800円
●36席
www.la-bettola.co.jp

山内章子=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国243号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は243号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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