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6人のシェフたちの自慢の豚料理


やわらかな肉質、脂の旨さを生かして岩中豚を看板料理に

オステリア・ナカムラ

豚肉料理が旨いと評判の店、六本木「オステリア・ナカムラ」。黒板メニューには、岩中豚を使ったグリルや、ジャガイモと一緒に軽く煮込んだルスティンネッガなど、スペシャリテが並ぶ。「僕はとんかつ大好き。朝だって、仕事帰りの夜中だってOKですよ」と話すシェフの中村直行さん。お客を虜にする所以は、シェフの豚肉好きからきていたのだ。

オープン当初から使っているのは、岩手県産岩中豚。コストと質のバランスを考えた結果、肉質のやわらかさや脂の甘味に魅力を感じてこの豚を使うようになった。「グリルにしても、お客様は脂身も残されないですね」とマダムの幸子さんも太鼓判を押す。

写真のバルサミコ煮込みは、とろりとした甘酸っぱいソースが、豚肉をまろやかに包み込む看板料理。赤身に適度に脂が混じる肩ロースを使用。タマネギを丁寧に炒めて甘味を出すのがポイントだ。バルサミコをたっぷりと加えて煮つめ、ソテーした豚肉を加えて煮込む。奥深い酸味が、やみつきの味になる。

岩中豚のバルサミコ煮込み
ソースはコクのあるベーコンや生ハムを隠し味に、タマネギを炒めて甘味を引き出した。バルサミコを加えて凝縮感を出し、別にソテーしておいた豚肉を入れて約1時間半煮込む。岩中豚は赤味が強く旨味もあり、ほどよくやわらかい食感に仕上がっている。

中村直行さん
1962年東京都生まれ。青山のイタリア料理店「リトルイタリー」を経て、渡伊。ミラノをはじめ、北イタリアを中心に修業。86年帰国後、渋谷「バスタ・パスタ・ウエスト」などを経て、2003年独立。

フランス料理のソースを基本にショウガ焼きを完成

コントワール ミサゴ

昨年月にオープンした西麻布のフランス料理店「コントワールミサゴ」。「僕が静岡出身なので、地元の食材を使ってみようと探していたら、この萬幻豚を知りました」と話すシェフの土切祥正(つちきりよしまさ)さん。

萬幻豚は、富士山麓の朝霧高原に育つ三元豚。飼料のおよそ25%を、サツマイモや大麦などの良質なでんぷん質を含む餌にすることで、オレイン産たっぷりのおいしい脂が形成される。「脂に香りがあって、赤身はジューシーですよ」と土切さん。そして生まれたメニューが、写真の「萬幻豚のローストショウガ風味ソース」。萬幻豚はロース肉を使用し、まず側面の脂を焼いて、溶け出した余分な脂は捨てる。そして肉の断面は、けっして強火で焼き締めない。あせらず、じっくりと、肉の焼き加減を見守る土切さん。グラス・ド・ヴィアンドに、砂糖とショウガのキャラメリゼを入れて作った香り豊かなソースは、あたかも「フレンチ版ショウガ焼き」といった趣向。誰もに愛される豚肉料理がここに完成した。

富士朝霧高原 萬幻豚のロースト ショウガ風味ソース
フォン・ド・ヴォーと白ワインを煮つめてグラス・ド・ヴィアンドを作り、ショウガのキャラメリゼを加えて、すっきりとした甘さのソース仕立てに。レンコンのフライやジャガイモのグラタンを添えた。ショウガ風味のソースが萬幻豚を爽やかな味に仕上げる。

土切祥正さん
1976年静岡県生まれ。「下高井戸 旭鮨総本店」に入店。フランス料理の世界に転向し、西麻布「レリノス」を経て、北海道のオーベルジュ「ヘイゼルグラウスマナー」で働く。西麻布「ブラッスリー マノワ」で4年間勤務後、 2010年独立。

塩漬けにした自家製ラルドが脂の魅力を発揮

神楽坂しゅうご

シェフの広瀬周悟さんが日本各地で探し当てた蝦夷鹿、仔羊、土佐あかうし、国産ジビエが、日替わりでメニューを賑わす「神楽坂しゅうご」。肉好きにはたまらない店である。

豚肉は、広瀬さんが吟味を重ねた結果、昨年から北海道十勝産の蝦夷豚を仕入れるようになった。「以前はあまり好んで豚肉を食べなかったのですが、この豚に出会ってからは豚肉のおいしさに目覚めましたね」。

蝦夷豚は、春から秋は広い牧草地帯、冬場は雪原を駆け巡り、飼料に頼らず野菜を食べてのびのび育った放牧豚だ。仔豚は通常6カ月で出荷のところ、1年半かけて、じっくり育てられる。「脂がきれいでおいしい」と広瀬さんが話すように、甘くてさっぱりした脂と、噛むほどに旨味が広がる肉質が特徴だ。広瀬さんはこの蝦夷豚のロース肉をローストするだけでなく、脂を塩漬けにして自家製ラルドを作り、それをオーブンで加熱して添えた。ピュアな脂のおいしさを味わってほしい。そんな思いがひと皿に込められている。

蝦夷豚のロースト
オーブンで焼いたロース肉は休ませず、フライパンの上で何度も返しながら焼き、芯まで熱々の状態で味わえるように仕上げる。塩漬けにしたラルドはスライスして軽くオーブンで温めて添えた。シナモン風味のビネガーソースが切れ味のある味わいに。

広瀬周悟さん
1981年茨城県生まれ。調理師専門学校卒業後、石神井公園「クラッティ ーニ」(閉店)に入店。西麻布から現在丸の内に移転した「グット・ドール・クラッティーニ」では約4年半働く。2008年3月に現店のシェフに就任。

ハンガリー豚×中華料理のとろけるマッチング

虎穴(フーシュエ)

2009年から本格的に輸入が始まったハンガリー産のマンガリッツァ豚。「脂の融点が低いためサラリと口溶けがよく、きめ細かい肉質にも驚きました」とオーナーシェフの小松仁さんは惚れ込んだ。この一品は、オープン当初からメニューに並ぶ人気の前菜だ。

肩ロースは価格的に見合わずロース肉を導入したというが、厚い脂をまとった赤身には、豚肉とは思えない繊細な霜降りがびっしり。これらを生かす調理法として選んだのが、四川料理の定番、雲白肉(ウンパイロウ)(薄切りゆで豚のニンニクソースがけ)だった。

決め手は火入れ。一日約800gのブロック肉を、豚肉の加熱温度としてはギリギリの低さの62℃の湯で約60分間、じっくり加熱する。「調理法はいたってシンプルですが、温度管理は徹底しています」と断言する低温調理が、この豚の魅力である甘くしっとりした脂と赤身のマリアージュを生み出すわけだ。レシピは伝統に忠実。だがまったく斬新なひと皿として、今日も食べ手を陶然とさせている。

マンガリッツァ豚の薄切り ニンニクソース
低温で火入れした赤身は美しいロゼ色。一日分をゆでて、注文ごとに薄切りに。醤油、甜醤油(テンジャンユ)、ニンニクのすりおろしなどを合わせたソースとラー油をかけて提供。じわじわ押し上げるラー油の辛さが、肉の甘味をさらに引き立てる。 

小松 仁さん
1975年東京都生まれ。横浜中華街で修業をスタ ートし、都内の中華料理店で広東料理を中心に経験を積んだのち、都内や上海で店舗展開する「過門香」に入店。赤坂店を皮切りに支店を経て、2009年9月に独立。

精緻な炭火焼き技術で骨付き肉をエレガントに

エチョラ

「アサドール」と呼ばれる炭火焼き器に耳を近づけ「音が聞こえますか?」と、大阪のスペイン・バスク料理店「エチョラ」の山本嘉嗣さん。確かに、ジュワッ、ジュワッと肉から溶け出た脂の滴る音がする。「この音の間隔が短いと、脂や水分の蒸発が早い。つまり温度が高すぎるサインです」と、山本さんの炭火焼き談義は止まらない。

実は山本さんはアルゼンチンで修業した異色の経歴の持ち主。〝アサード〞というバーベキューが盛んな国で、肉の火入れから炭の扱い方までみっちり学んだ。炭火焼き器に適した骨付き肉にこだわり、イベリコ豚のベジョータを使用する。バーベキューというと豪快なイメージだが、山本さんの技術は緻密だ。炭火は500〜1000℃と、オーブンとは段違いの火力。融点の低いイベリコ豚の特徴を意識し、サシの入った赤身には直火を当てず、脂、骨、髄へと慎重に火入れする。豚肉の内部はロゼ色。「カットした瞬間がたまらない」とのシェフの言葉に納得の、美しい色だ。

イベリコ豚の骨付き肩ロース
炭火焼き器で約30分間火入れし、仕上げにバスク地方のトウガラシ、ピマン・デスプレットとパセリ、塩をまぶす。火の通りが早い部分にはホイルをかけて休ませ、肉にやわらかさが戻るのを確かめつつ慎重に焼く。シンプルだが丁寧な仕事が光るひと皿。

山本嘉嗣さん
1976年奈良県生まれ。大阪の懐石料理店を経て24歳でアルゼンチンへ。 3年後に帰国ののち、スペイン・バスク地方のミシュランの星付きレストランなどで3年間修業。 2010年7月、オーナーソムリエの平山仁氏とともに同店を開店。

丹念な下処理で、スネ肉を主役のひと皿に

ルカンケ

直径20㎝をゆうに超す骨付きスネ肉の迫力にまず目を奪われる。シェフの古屋壮一さんがめざすのは、前菜とメインのふた皿で満足させる料理。ボリュームはもちろん、ひと皿ごとに心に刻むインパクトと完成度に力を注ぐ。「丸ごと食せるのが豚の魅力。料理人の引き出しが試される、調理が難しい部位にひかれます」と古屋さん。伝統料理をベースに、テット・ド・コションのソテーやモツを使ったアンドゥイエットを好んで提供。写真のスネ肉は、マリネから始まる下処理で旨味を閉じ込めるのが肝だ。肉はほどよい歯応えがあり、プルプルのゼラチン質や、シナモンやオレンジの香りがさらに食欲を誘う。

ただし調理に手間と時間をかけるほど、素材の持ち味は失われる。そこで今回使用したキントア豚(バスク種純血黒豚)のように、濃厚な風味と熟成にも耐える力強い肉質を持つことが、古屋さんの豚選びの基準だ。そして肉本来の味を生かすべく、調味は控えめに。長く愛されるビストロの味に仕上げる。

キントア豚の皮付きスネ肉のラケ
ソミュール液に2日間漬けたスネ肉は香味野菜と2時間煮込み、1日休ませる。鶏のだし、シナモンなどを加えたソースに、赤ワインビネガーと粗糖で作ったガストリックを加えてキャラメリゼ。エシャロット、シブレ ット、おろしたオレンジの皮を添えた。

古屋壮一さん
1975年東京都生まれ。パリ「ル・クロ・ド・グルメ」「ルカ・カルトン」、ペリゴール地方「オテル・ド ゥ・ラ・トゥール」などで修業。帰国後、西麻布「ビストロ・ド・ラ・シテ」のシ ェフを5年間務め、09年11月に独立。

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沖村かなみ・文/構成 金原由佳、志賀紀美・文 岡本 寿、岡森大輔、中西一朗・写真

本記事は雑誌料理王国2011年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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