ヨーロッパの畜産農家が、育てた豚を余すところなく食べつくそうと作ったブーダン・ノワールは豚の血を使った腸詰めである。一方、腸に詰めない食べ方も。「大西亭」ではテリーヌに仕立て、冷前菜として提供している。
一般的に背脂を用いるが、この油脂分を何かほかのもので補えないかと考えていた大西敏雅さん。知人のシェフが生ハムの端肉をきざんで混ぜていると聞き、フォワグラを使うことを思いついた。「コクと風味を加えることが目的なので高価なものでなくていいのです。料理に使った余りで充分」と、タマネギ、ニンニクと一緒に軽く炒める。一部は溶けて全体にまわり、一部は形が残ったまま。時折角切りのフォワグラに当たるのもおもしろい。
フランスに行くと必ず、「ピエール・オテイザ」の店に立ち寄る大西さん。オテイザ氏は、バスク地方で絶滅の危機にあった黒豚を飼育し、復活させた生産者だ。「彼のブーダン・ノワールが本当においしくて。食べた時に何かが違う。バスク地方の香辛料、ピマン・デスプレットを利かせてあるのですが、それ以外にも豚のリエットが入っていたんです」。そう気づくとこれもすぐに試した。本来ブーダン・ノワールに身肉は入らないが、ホホ肉のリエットを混ぜ込むことにより、ゼラチン質も加わり、食べた時の肉感が出る。
冷蔵庫で一週間ねかせると状態がまとまり、食べごろだ。フォワグラとリエットを加え、食感と旨味が複層的かつ繊細に。コクはあるが濃厚すぎず、上品な味に仕上がる。
ブーダン・ノワールを使ったひと皿
ブーダン・ノワールのテリーヌ
切り分けてブリオッシュを添えた、シンプルな冷たい前菜。ブリオッシュは「大西亭」の料理に合わせて大阪のブーランジェリー「夢屋」が作ったもの。バターたっぷりのブリオッシュとフォワグラの風味がよく合う。
1.豚のリエットを作る。豚のホホ肉は強めの塩をふり、ひと晩おいておく。
2.水気を取り、1cm角に切る。タマネギとニンニクのみじん切りをバターで炒め、ホホ肉、ピマン・デスプレットを加えて炒める。材料が浸かる程度の白ワインと水を1:3の割合で注ぐ。沸騰したらあくを取り、蓋をし、200℃のオーブンに入れ、肉が柔らかくなるまで約1時間加熱する。オーブンから取り出し、火にかけ、煮つめる。塩、コショウ、生クリームを加え、フードプロセッサーにかける。粗熱を取り、冷蔵庫で保存する。
3.ブーダン・ノワールを作る。鍋を火にかけ、タマネギ、ニンニク(各みじん切り)、ナッツメッグ、1cm角に切ったフォワグラ、塩、コショウを入れて炒める(写真A)。
4.生クリームと豚のリエットを入れる(写真B)。リエットをほぐすようにして、炒め煮にする(写真C)。
5.火を止めて、豚の血を注ぐ(写真D)。血に火が入りすぎないように手早く混ぜる(写真E)。
6.テリーヌ型に入れ、バットで湯煎しながら(写真F)、アルミ箔をかけ、170 ℃のオーブンで1時間30分程度焼く。
7.取り出し、バットの中に氷を入れて急冷し、蓋をして冷蔵庫でねかせる。
大西敏雅さん
1968年大阪府生まれ。86年リーガロイヤルホテルに入社。宴会調理部、社員食堂、ブティックなどを経てメインダイニング「シャンボール」に配属。フランス料理のクラシックを学ぶ。95年に地元福島区で独立。安くて大ポーションのビストロスタイルの店を始める。著書に『モツ・キュイジ ーヌ』(柴田書店刊 和知 徹、菊地美升共著)がある。
text:Ayako Miyoshi /photo:Akihito Shimomura
本記事は雑誌料理王国2011年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。