カジュアルな食材の印象が強い豚肉を、トップシェフたちはいかにしてレストランのひと皿にしているのか。「タテルヨシノ」の吉野建さんにその考え方とテクニックを聞いた。
「料理人は天職」と話す吉野建さんが、今回披露してくれた豚料理は「豚足のファルシィ」。2003年に「キュイジーヌフランセーズタテルヨシノ」をオープンしたときのプレス発表で、記者たちにふるまい、会場を沸かせた料理だ。
「周りの人は『牛肉料理のほうががいい』とアドバイスしてくれたけれど、僕はこれでいくと言い張った。普通の料理を出しても面白くない。みんながびっくりするような料理を、出したかったんです」
その思惑はピタリとはまり、会場中で賞賛の声が上がった。以来、「豚足のファルシィ」は「タテルヨシノ」のスペシャリテ。今もコース料理の一角を占め、ゲストの笑顔を誘う。
フランス料理で豚肉料理といえば、シャルキュトリが有名だ。しかし、それは基本的にビストロの料理。「レストランタテルヨシノ銀座」のようなガストロノミーのレストランで提供する料理ではないというのが、一般的な考え方だろう。しかし、ここでは、ゲストが喜んでこの豚肉料理を注文する。
「ただ当たり前に旨い料理をつくっているだけでは、プロの料理人とは言えないと思う。ましてやガストロノミーのレストランなら、なおさら。豚肉だって手間をかけて、知恵を絞って、工夫をこらして、洗練された料理に仕上げなければいけない。プロの料理人とはそういうものだと思います」と吉野さんは語る。
実際、「タテルヨシノ」の「豚足のファルシィ」は、エレガントで見目麗しい。
まず、豚足を包丁で開いて、ブーケガルニや白ワインビネガーなどとともに4時間ほど煮込む。骨がホロリとはずれるほどになったら、骨と身を分け、身をバットに広げて重石を乗せ、ひと晩おく。
プレスされてシート状になった豚足で、フォワグラのテリーヌや鶏肉などを合わせてムース状にしたものを、円筒状に包む。さらに、アルミホイルで包んでゆでること40分。冷めたら、マスタードとパン粉をまぶしてこんがり焼き上げる。
下準備をいれたら2日がかりの作業。これでもか、これでもかと手をかけてひと皿に仕上げる。
「あとは見せ方。レストランだから、美しく盛り付けます。でも、『タテルヨシノビズ』のようなビストロの場合は、同じ『豚足のファルシィ』でも、焼き上げたままのものをゴロンと皿に盛って提供します。そのほうが、ダイナミックでビストロ料理らしいからね」
使う材料も、レストランとビストロでは少々変える。しかし、豚足料理とは思えない洗練された雰囲気は両者とも共通。そこに、「タテルヨシノ」の美学が見え隠れする。「僕の料理のほとんどはフランス料理のメニューにあります。それをアレンジしてタテルヨシノ流にする。クラシックがベースになかったら、フランス料理じゃなくなる。これは大切なことだと思います」
華麗な料理の裏に理論がある。巨匠の料理は、理屈と感性のバランスが絶妙なのである。
タテル ヨシノのスペシャリテのひとつで、現在もコース料理のメインとして提供されている。こんがり焼き上げられた表面のカリッとした食感と、中身のねっとりとした食感の組み合わせも絶妙。フォワグラやトリュフを贅沢に使った、ガストロノミーらしい上品なひと皿だ。
豚足…10本/網脂、マスタード、パン粉、ソースムータルド…各適量
豚足下ごしらえ用
香味野菜、水、香辛料、ブーケガルニ、塩、白ワインビネガー、白ワイン…各適量
鶏肉のムース
鶏ムネ肉…250g/卵白…2個/テリーヌフォワグラ…適量/トリュフアッシェ…少々/シャンピニオンデュクセル…適量
Tateru Yoshino
1952年、鹿児島県生まれ。79年に渡仏し、「トロアグロ」などで修業。84年に帰国するが、 98年に再渡仏し、パリ8区に「ステラ マリス」を開く。2003年、東京に「タテル ヨシノ」を開業。現在、東京に3店を展開する。
山内章子=取材、文 絵鳩正志=撮影
本記事は雑誌料理王国第251号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第251号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。