イタリアの地方パンVOL.1 羊飼いの携帯食パン


リグーリア州カルパーシオのパーネ・ドルツォ

羊飼いの携帯食だった大麦粉で作る乾パン

リグーリア州のアルジェンティーナ渓谷カルパーシオ村周辺で親しまれている、大麦粉で作るパーネ・ドルツォは日保ちがいい。それもそのはず、このパンは羊や山羊を追う人々が携帯するパンとして生まれた。その昔、牧草を求めて移動し続ける羊飼いたちは、このパンをリュックに入れて持ち歩き、食事時ともなると、乾いて堅くなったパーネ・ドルツォを水辺でしとらせ、手近にあるチーズと一緒に食べていたそうだ。

本で見かけたパーネ・ドルツォに興味を持ち、パン屋「イル・フォルノ」に出かけた。「作っているのは、僕ともう1軒モリーニのパン屋だけ」と4代目のジャンニ・マルヴァルディさん。

パーネ・ドルツォは、限られた生産量のパンなのである。「イル・フォルノ」はリグーリアの海辺から10キロほど入ったアルジェンティーナ川に沿う、山間の小さな町バダルッコにある。ところどころにオリーブ畑が高い山の上まで広がるオリーブオイルの産地でもある。ジャンニさんは、毎日夜中の12時から生地を練り、発酵させて朝にかけてパンを焼き、午前中から海辺や山の上のレストランなどに配達している。パーネ・ドルツォは、前日に大麦の粉、イースト、水を練り合わせて発酵させる。翌日、そこにさらに大麦の粉、イースト、水、塩を加えて練り、柔らかい生地にして、直径10〜12センチの筒状にする。端から釣り糸で厚さ1センチの円盤状に切り分けて形を作る。これを休ませ、200℃のオーブンで片面15分ずつ焼く。すっかり冷ますと、こげ茶色のパンができ上がる。パンというよりカンカンに堅い乾パンだ。実際、湿気を寄せつけないように保存すれば1カ月は優に保つ。

食べるときは、水に浸けておいて少し柔らかくして調味する。皿にのせ、オリーブオイルをかけて小さく切った完熟トマトをのせ、好みでニンニクの風味をつけたり、アンチョビやバジリコをのせる。パーネ・ドルツォは一年中作っているが、完熟トマトを合わせるために、夏場になるとリクエストが多くなるそうだ。

さっそく持ち帰り、我が家で試してみた。ボウルに水を張り、パーネ・ドルツォを入れてみたが10分経っても堅い。さらに5分おいて皿の上に。まずはシンプルにオリーブオイルをかけ、真っ赤に熟したトマトを小さく切ってのせて食べてみた。ボソボソと崩れるようなパーネ・ドルツォと、少し酸味のあるトマトは実に相性がいい。それにオリーブオイルが加わると素朴な風味が一段と豊かに感じられる。この食べ方は「カルパシーナ」と呼ばれ、カルパーシオ村で毎年9月初めに催される祭りで、訪れる人たちにふるまわれている。

須山雄子=文、ジョヴァンニ・ジェラルディ=写真

本記事は雑誌料理王国2006年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2006年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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