宝酒造が全身全霊で創り上げた超プレミアムな日本酒「然土」。テロワールにこだわり、ペアリングを目指すそれは、ワインの如し。大橋MWが仕掛け人ならそれもあり! 立ち上げから2年で英国市場へ、3年目の今年は華麗に欧州デビュー。パリで行われたローンチ・イベントの一部始終をお伝えしよう。
「大手が圧倒的レベルのプレミアム看板酒を造ってもいいじゃないか」。
ワインと酒の両方で「マスター」の称号を持つ世界的な権威、大橋建一MWが、そんな思いで宝酒造に問いかけたことで夢が膨らみ実現したのが、クラフト感あふれる松竹梅白壁蔵「然土N・end」だ。「自然や土が醸成する」、そのクラフトが「Never End」であるという掛け合わせのネーミング。なんとも風情があって、カッコいいのである。
生まれは兵庫県西脇市。その気候や土壌に惚れ込み、個性的な環境で山田錦に磨きをかけることにした生みの親が、宝酒造と大橋MW。彼らと専門知識を分け合い、ともに日々手塩にかけて育んでいるのが、篤農家の藤原久和さんだ。大衆的なイメージの松竹梅ブランドに、全銘柄を牽引するようなシュッとした面持ちの端正で頼もしい子を加えたいという熱い思いが実り、「田んぼから酒まで」地道で大々的な仕掛けを経て、白壁蔵で誕生した。2023年のことである。
「然土」は今のところ年間500本の製造とされているので、すでに日本酒愛好家の間では引っ張りだこ。こんなすごいクラフト酒を拝めるチャンスがある日、筆者に巡ってきた。昨年2025年の英国市場プレミアに続き、今年7月2日、フランス・パリにて欧州向けのローンチ・イベントが開催されたのである。



鋭い皆さんはもうお気づきかもしれないが、米作りから蔵元が関わり、年ごとのヴィンテージを重視する「然土」は、「畑・年・造り手」を重んじるワインのドメーヌ的な発想に紐づけられている。ここが、競合大手のプレミアム銘柄との大きな違いだ。
そう考えると、ワイン文化の中心でもあるフランス・パリで欧州ローンチ・イベントが開催されたことは、深く納得がいく。会場はコンコルド広場に面した由緒ある五つ星ホテル「オテル・ド・クリヨン」。フランスの歴史とともにある壮麗な多目的室で、大橋MWによる限定マスタークラス、続いてオテル・ド・クリヨンのシェフ・ソムリエであり、M.O.F.(フランス国家最優秀職人章)の称号を持つグザヴィエ・チュイザさんが特別に考案したペアリング・メニューのランチ会があった。
大橋MWの英語によるマスタークラスでは、日本酒の現在、「然土」の誕生秘話などが詳しく語られ、土地選び、土づくりから関わることの意義、伝統手法への敬意などが大変よくわかる内容だった。大橋MWは言う。
「私たちが然土で目指したのは、 “旨みがあり料理に合う”酒です。そこに合わせるために精米歩合を見直す手法をとっているので、歩合表示はあえてしていません。また旨み重視の観点から、宝酒造でも得意としている伝統の生酛作りにこだわり、時間をかけ酵母の力で米の奥行きを引き出しています」
この銘柄にとってはサステナビリティも重要課題だ。世界に通用する酒を作るためには、そこは避けて通れないと大橋MWは言う。
「稲作時には土壌の有機物を分解する過程で温室効果を持つメタンガスが発生しますが、この然土の田んぼでは稲の中干し期間を通常よりも長くし、さらに収穫後の藁の分解をバチルス菌含有資材などを利用して促進することで、最大で約90%のメタンガスを削減できることがわかりました。この方法が業界に広まれば、日本酒業界全体で大きく温室効果ガス削減に貢献できるかもしれません」




この研ぎ澄まされた日本酒とコース料理のペアリングでは、「然土」のバーティカル・テイスティングが採用された。ペアリングするのはチュイザM.O.F.が欧州デビューにふさわしい綿密なデザインで作り上げたコース料理だ。
もともと「然土」は米のおいしさを余すことなく引き出し、厚みのある味わいを構築することで料理に伴奏させることを目指している。先ほど2026年のロットが500本と書いたが、うち欧州向けが96本(フランス48本)という驚くべき限定銘柄でもある(ちなみにこのイベントでフランス分の10本を空けたそうだ……)。今回はさらに極希少となっている2025年、2023年ヴィンテージを味わうという貴重な体験もさせていただき、大変光栄だった。
ペアリング内容については写真キャプションに譲っているが、いずれも華やかで申し分なく、その洗練に感動してしまった。「然土」の性質を熟知しているテュイザM.O.F.ならではの皿の数々は揺るぎない安定感があり、フランス料理の麗しさを存分に感じさせてくれた。
「然土」は、芳醇で柔らかい。米のふくよかな旨みを心ゆくまで感じさせてくれる。精米歩合は公開されておらず、吟醸・大吟醸にこだわらない姿勢もまた小気味良い。ただただ、食中酒としてエレガントに振る舞う。
2026年ロットではミネラル感はごくわずかに感じたが、デカンタージュをして提供された2025年ヴィンテージのほうがミネラル感が強く、少し熟成が進んでいる2023年ヴィンテージでは良い意味でさらに増し、少しドライになっている感じがした。説明を聞いていると、やはり糖度が少し下がっているらしい。



海外における日本酒の可能性について考えるとき、「料理に合わせることを前提とした味わいこそが未来である」と、酒ソムリエたちは考えているようだ。近年はフルーティで華やかな甘みのあるタイプが人気だが、食中酒を目指すなら、ワインの考え方を取り入れるのは理にかなっている。
本イベントのコーディネーターであり、日本酒コンクール「Kura Master」の創設者兼審査委員長として、フランスにおける日本酒の普及・啓発の専門家として何十年も尽力しておられる宮川圭一郎さんはこう言う。
「Kura Masterを10年前に創設し、ここフランスで日本酒のわかる酒ソムリエを育て、飲んでもらう機会を提供し、消費者の裾野を広げるべく活動しています。今ではフランスの三つ星レストランの20%、二つ星の20%、540軒ある一つ星のうち33%にすでに日本酒が入っています。これは本当に画期的なことであると同時に、ペアリングの可能性について示唆してくれていると思います。然土のようにワイン的なアプローチは、欧州で日本酒を広めるために非常に親和性が高いとみています」
7ヘクタールの田んぼがあり、毎年その田んぼの状態を観察しながら「今年の然土」を設計していく。大手酒造がその技術と知恵と伝統を結集して創り上げた、超プレミアムなクラフト酒が今、世界へ向けてその存在感を強めている。
大橋MWは「今後勢いを増していく日本酒の欧州マーケットでも、然土のアプローチはしっくりきます。ペアリングという意味では、欧州各国で料理にバラエティがあることも日本酒の可能性を後押ししていると思います」と評価している。
イギリスを含め、欧州で今後日本酒がどう展開していくのかも楽しみだが、2027年の「然土」がどうなるかについて考えるだけで、胸が躍るようだ。
「然土N・end」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/nend/
Drink Japan(イギリスの日本のドリンク見本市)
https://drinkjapan.uk/
Kura Master(フランスの日本酒コンクール)
https://kuramaster.com/
text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni
