「私にとってパスタは文化です」と語るアンドレアさんの出身地は、イタリアのピエモンテ州。だが、研鑚を積んだ地は故国にとどまらない。
フランス、スペイン、ドバイ、インドネシアなど。スペインの二ツ星シェフ、キケダ・コスタ氏からは、「伝統」と「独創」を融合させた地中海料理を学んだ。イタリアの料理人は修業をした土地の味や、生まれ育った郷土の味にこだわると言われるが、各国を巡ったアンドレアさんにそうした縛りはない。自分の感性
を信じて自由に、オリジナリティ溢れるイタリア料理を追い続ける。
アンドレアさん自慢のパスタ料理は、極太の乾燥スパゲットーニで作る「カルボナーラ」だ。「シャングリ・ラ ホテル 東京」のスペシャリテとも言えるひと品で、メニューが季節によって変わるのに対し、これだけは一年中変わらない。カルボナーラといえば、ローマを中心にイタリアの中部や南部で親しまれてきた家
の味。大衆的な料理を、アンドレアさんはなぜ一流ホテルのスペシャリテに据えているのか――。
「カルボナーラは、イタリアでも日本でも愛されている。だからこそ、自分にとってベストの味を表現したかった」。ただし、ホテルという非日常の空間で出す以上、家庭料理やトラットリアのレベルは超えなければならない。アンドレアシェフは自身の料理に「トラディショナル」「シンプル」「モダン」「豊かなフレーバー」という基準を設けており、それはカルボナーラも例外ではない。
これらの条件を満たすために、まず選んだのが極太の乾燥パスタ。麺の弾力感を楽しみつつ噛みしめると、小麦粉のフレーバーが口中に広がる。そして、この太麺の存在感に負けないようにと組み合わせたのが、グアンチャーレとペコリーノチーズだ。グアンチャーレは日本人には脂っぽく、ぺコリーノチーズは塩味が強すぎる、と敬遠する料理人も多いが、個性的な素材だからこそ、太麺のよさが活きる。何よりグアンチャーレとぺコリーノチーズはイタリア伝統の味でもある。
こんなふうに伝統を重視しながら、シェフの生み出す皿はシンプルでモダンだ。卵の使い方ひとつにしても、溶いた卵黄をパスタにからめるだけでなく、砂糖と塩の中に漬けて水分を抜いた卵黄も用意して、これをチーズのように削ってふりかける。この独創性にこそ、「シェフの料理にはモダンさと高級感がある」と評される理由がある。
「私の考える高級の条件は、ひとつひとつの食材やテクニックにこだわること。それらが一体となってはじめて高級感が生まれると思います」
好きなシェフはミシェル・ブラス。
「自然に敬意を払う姿勢とシンプルな表現に共感できます。ただし、彼は天才ですけどね」と照れながら、アンドレアさんもまた、休日には地方の生産者の畑を訪ね、自然に触れる。さらに日本でパスタ料理を作る以上は「日本の文化を理解すべき」と日本語を学び、書物を紐解く。シェフの日本語の習得の速さには、まわりのスタッフが驚くほど。その向上心と情熱、謙虚な姿勢もパスタの味に反映されているのだ。
スパゲットーニ Spaghettoni
中・南部の郷土の味カルボナーラに欠かせない極太パスタスパゲッティの一種。スパゲッティは太さで呼び名が変わる場合があり、1.6~1.9㎜をスパゲッティ、2㎜以上をスパゲットーニと呼ぶ。ローマの郷土の味、カルボナーラに使うことが多い。
●ブランド…ベネット・カバリエリ社
●産地…プーリア州
●太さ…約2㎜
●ゆで時間…約20分
●塩分濃度…約1.2%
南イタリアのプーリア州は小麦の産地。そこで100年の伝統を誇る老舗パスタメーカーのスパゲットーニ。長時間低温乾燥して作られたパスタは、しっかりとしたコシとナチュラルで豊かな風味が特長だ。
太くて弾力のあるスバゲットーニとカリカリに焼いたグアンチャーレ。このテクスチャーの違いを楽しみつつ、濃厚な卵の風味と、ぺコリーノチーズのほどよい塩味がきいた、バランスよいソースの味を堪能する。
鮮やかなカルボナーラは、ソースの濃厚さを視覚的にも伝える。極太のスパゲットーニに直接からめる卵は、卵黄が濃いオレンジ色の奈良産を使用している。
太めの乾麺をチョイスして小麦粉の香りと弾力を強調
カルボナーラのようにクリーム系のソースを使うパスタには、太さが 2㎜以上の乾燥パスタが最適。パスタは20分ほどゆでて、じっくり中まで火を通す。
グアンチャーレで作るクリスピーポークチーク
最近では、グアンチャーレよりも脂の少ないパンチェッタを使うシェフが多いが、グアンチャーレをじっくり焼いてクリスピーポークチークを作るのが伝統的調理法。
パスタをモッツアレッラの漬け汁などで和える
ゆで上がったパスタは、クリスピーポークチーク、卵黄、白ワインやブラックペッパーなどと和えるが、この時、モッツアレッラの漬け汁を入れてコクを出すのがアンドレア流。
仕上げに塩味と甘味のあるペコリーノチーズをかける
塩味が強いのがペコリーノチーズの特徴で、その塩味がソースの味を引き締めるのだが、シェフは、「塩味だけでなく甘味のあるものを選ぶように」とアドバイス。
シェフオリジナルの乾燥卵黄は、砂糖と塩を3対7の割合で混ぜた中に卵黄をひと晩漬けて作る。調理には砂糖と塩をよく払って使う。環境、餌、飼養方法など、すべてにこだわった奈良産のオーガニック卵を使用。
イタリア・ピエモンテ州出身。イタリア、フランス、スペインなど、各国で創作料理の腕を磨く。2011年から14年まで、「ブルガリホテル・ミラノ」でエグゼクティブシェフを務め、14年9月、「シャングリ・ラ ホテル 東京」のエグゼクティブシェフに就任。
シャングリ・ラ ホテル 東京
イタリアンレストラン「ピャチェーレ」
Shangri-La Hotel , Tokyo
Italian restaurant Piacere
東京都千代田区丸の内1-8-3
丸の内トラストタワー本館28階
☎03-6739-7898
●無休
●86席
www.shangri-la.com/jp/tokyo/shangrila/
本記事は雑誌料理王国253号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は253号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。