トリュフを生産者から直接取り引きすることは、実はとても難しい。高級食材ゆえに、さまざまな流通システムや利権が複雑に絡みあっているからだ。
イタリア中部ウンブリア州でトリュフを生産するミルコ・パリアーリさんは、2016年9月から、インポーター「ノンナ・アンド・シディ」を通じ、日本で直接トリュフを販売している。「トリュフは鮮度が命。それなのに多くの手を経ていては、本当の魅力が伝わらない。私のような生産者から直接購入できれば、48時間以内に日本のお店に届けることも可能です」と、パリアーリさんは話す。
キノコは、地面よりも上に生えるものを「地上生」、トリュフのように地下に生えるものを「地下生菌」と呼ぶ。「セイヨウショウロ」(西洋松露、Tuber)の学名を持つトリュフは、全世界で60~70種類ほどあるといわれるが、研究が進んでいるのは、ヨーロッパやオーストラリア、アメリカなど。中国や日本などでも近年、ようやく研究が行われるようになった。ちなみに、日本には現在20種類のトリュフがあるとされる。
「そのなかでも高級とされるトリュフは、イタリアでは5種類。これ以外のトリュフは、名前こそトリュフですが、質が高いとは言えません」
セイヨウショウロ属のトリュフの数は世界で60~70種類とされる。このなかに黒トリュフ、白トリュフが含まれている。イタリアでは25種類が確認されるが、食用とされるのは9種類。商業的に売られているのはさらに減り、6種類である。そのなかの5種類を、パリアーリさんは上質のトリュフと考えている。「食べられるトリュフ、食べられるけど質の悪いトリュフ、商品になるなかでももっとも高級とされるトリュフがあることを、多くの人が知りません。私のような生産者から直接手に入れられれば、疑問にも答えることができ、万が一不良品であっても、すぐにこちらに伝わり、改善することができます」とパリアーリさん。
【60~70種類】世界中にあるトリュフの種類
【25】イタリア国内で確認されているトリュフ
【9】イタリア国内の食用トリュフ
【6】売ら商業的れてにいるトリュフ
【5】高級なトリュフ
下のカレンダーがその5種類。採取時期はそれほど重なっておらず、1年中採れることがわかる。
「トリュフを扱う上で、もっとも大切なことは、旬の時期のトリュフをきちんと使うことです」
当たり前のように聞こえるが、実はこれが一番難しい。5種類のトリュフには、見た目が酷似したものや、未成熟のもの、成熟しすぎたものが混在することもあるからだ。しかも、それをトリュフハンターや流通・卸の多くが見分けることができない。シェフや料理人も同じだ、とパリアーリさんは指摘する。だからこそ、信頼できる生産者から直接購入することが、質の高いトリュフを手に入れる第一の条件なのである。
年が明けてからお目見えする白トリュフ。とくに強い香りを放つ。またニンニクを思わせる味もある。外見は冬の白トリュフに似ているが、カットした断面は、それよりも濃く、生ハムのような赤みをもっている。
秋の黒トリュフと同様の特徴をもち、夏に収穫するトリュフ。外見は秋の黒トリュフに似ているが、芳香はこちらの方が強い。カットした断面の色は異なり、黒っぽい黄色をしている。
秋から冬にかけての黒トリュフ。夏トリュフと同じ種に属するトリュフで、冬の黒トリュフに対して価格は低い。外側は黒色、中は薄い茶色をしている。
トリュフのなかで、もっとも香りが強く高級とされる冬のトリュフ。この香りは、どのトリュフとも異なる。カットした断面はピンク色をしているものが最上級とされている。ピエモンテ州アルバが世界的に有名な産地だが、マルケ州アクアラーニャも名産地として知られている。白トリュフのほとんどは、オークやヘーゼルナッツの木の下で生育する。
白トリュフの旬が過ぎたあと、入れ替わるように出始める。フランスではペリゴール産が有名だが、イタリアではノルチャが第一の産地だ。白トリュフに次いで質の高いトリュフとされる。表面は黒に近いこげ茶色で、黒トリュフ特有の薄い白のラインが入る。黒トリュフは、おもにポプラやヤナギの下で生育する。
パリアーリさんは、2004年、30歳のときに黒トリュフの産地として知られるウンブリア州のノルチャに山を購入し、トリュフの生産者に転身した。既存の利権が絡むトリュフ業において、新規参入は珍しい。そこはもともと黒トリュフが採れる山だったが、乱獲のせいで良いものができなかった。パリアーリさんがその山に対してまず行ったのは「休ませる」こと。「『良いトリュフを採る方法はありますか?』と聞かれますが、私自身は、何か特別なことをしているわけではありません。ただひとつ、トリュフができそうな『力のある山』を作ることを心がけているだけです」
黒トリュフが育ちやすいポプラやヤナギを植林し、山に草木が戻るように努めた。その期間、およそ6年。パリアーリさんは、トリュフの生育を見守り続けた。
地下生菌は、山の草木や小動物など、生態系のなかで共生している。採り尽くしてしまえば、そのサイクル自体を崩してしまう。持続的に、質の高いトリュフを採り続けるためには、しっかりと成熟したもの以外は採らない、とパリアーリさんは言う。
「イタリアのトリュフの生産量は、50年で30%も減少しています。その大きな要因は乱獲です。トリュフの値段の高騰が取り沙汰されますが、その原因を作っているのは人間自身なのです」。良いトリュフを手に入れるためには、旬の時期のトリュフを使うこと、とパリアーリさん。そうすれば、未成熟のものや種類の違うトリュフが混ざる危険性も少なくなる。「トリュフのことを知ること。それが、トリュフ名人と呼ばれるシェフへの最短ルート」とパリアーリさんは語った。
主な産地はアペニン山脈が走る北部から中部の5州
イタリアでは、ほぼ全域でトリュフを採ることができるが、質の高いものはイタリア北部から中部、とくにアペニン山脈が走るピエモンテ、エミリア=ロマーニャ、トスカーナ、ウンブリア、マルケの5州が産地として知られる。なかでもピエモンテ州アルバは、白トリュフの世界的産地として有名。イタリア国内で黒トリュフの産地として代表的なのは、ウンブリア州ノルチャで、パリアーリさんは、この地に黒トリュフの山を持つ。このほか、アルバに次ぐ白トリュフの産地は、マルケ州アクアラーニャ。パリアーリさんはここにも白トリュフの山を持っており、トリュフの種類ごとに採り分けているという。
昔は豚がハント 今は犬がトリュフを探している
長らく、トリュフハンターとともに山に入り、地中に埋まったトリュフを、香りによって探し出すのは豚の役割だった。しかし豚は、トリュフを嗅ぎ当てるとともに食べてしまうため、今では禁止されている。現在は、嗅覚が鋭くトリュフを食べない犬がハンティングで使われている。トリュフ犬は、特別に訓練された犬で、おもに、ラゴット・ロマーニョやブラッコ・イタリアーノ、ポインター、セッターなどの犬種が使われている。パリアーリさんは、 23匹のメスのハンター犬とともにトリュフを探す。
水分を吸収しすぎるため 米とともに保存するのはNG
トリュフの75~80%は水分からできているため、その水分を発散させたり、余計にためてしまうことが、トリュフを保存する際もっともしてはいけないことだ、とパリアーリさん。「米とともに保存する人もいますが、水分を吸いすぎてしまうので、良い保存法とは言えません」。トリュフは1、2日で使い終え、余ったものはトリュフバターにするなどして、悪いものをゲストに出さないようにすることも、トリュフ名人に必要なことだ。
本記事は雑誌料理王国第269号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第269号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。
江六前一郎=取材、文
text by Ichiro Erokumae