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「銀座に志かわ」の食パンがおいしい理由


水の力を活用してパン業界の新たな可能性を
銀座に志かわ 山本 厚さん

ブームの中でも異彩を放つ「水にこだわる」食パン

2018年9月、銀座1丁目のビル1階にオープンした「銀座に志かわ」。食パン専門店としてオープン当初から注目を集め、以来行列の絶えない人気店だ。さらに、フランチャイズを展開し、6月末時点で10号店までをオープン。2021年8月までに100店舗をめざしている。

この「銀座に志かわ」のお客さまは女性ばかりではなく、男性の姿も多い。年齢層も幅広く、開店前から並ぶお客さまの中にはリピーターも少なくない。現在の食パンブームの中でも、ひと際多くのお客さまの心を強く掴んでいる店だといえるだろう。この「銀座に志かわ」の人気を支える鍵となっているのが、「水」なのだ。

「銀座に志かわ」の食パンを入れる手提げ紙袋には水をイメージした雫の柄が施され、「に志かわ」の「かわ」は水を世界各地に運ぶ「川」をイメージしている。それほど「水」が重要な要素となっているのだ。技術担当役員の山本厚さんは、「銀座に志かわ」の食パン誕生のきっかけをこう語る。「開発をスタートしたのは2018年2月。当時話題になっていたアルカリイオン水を使って食パンを焼いてみようということになり、50名ほどのモニターを集めて食べ比べをしました。浄水器の水と弱アルカリ性の水、強アルカリ性の水を仕込みに使って3種類の食パンを焼いたところ、モニターの半数が、強アルカリ性の水を使ったものがおいしいと答えたんです」

銀座に志かわ
銀座本店だけで1日に900本売れるという「銀座に志かわ」の食パン。生地を長時間寝かせなくてもアルカリイオン水で小麦粉の甘味を引き出せるため、短時間で作ることができるのも強みのひとつ。

老舗「ポンパドウル」横浜元町本店をはじめ、パンの道で50年近くの経験を積んだ山本さんは、アルカリイオン水は素材の味を引き出す力があり、水と油を結合させる乳化作用があるのではないかと言う。そのため生クリームやバターなどを入れても、小麦粉の甘味が引き出され、水分も蒸発しにくいため、上品な甘さでしっとりとやわらかい食感の食パンになるというのだ。このアルカリイオン水の作用については、現在東京大学に研究を依頼しているそうだ。

「砂糖を使うとどうしても口に残る甘さがありますが、このパンにはない。アルカリイオン水が小麦粉の糖質を引き出すことで生まれる、自然な甘さが感じられるのではないかと思います。さらに乳化作用のようなものがありますから、焼いても水分が蒸発せず、耳までやわらかくて、しっとりと、喉越しがよいような食感が生まれるのではないでしょうか。生地もずっしりとしていて、一般的な食パンよりもかなり重いですよ」と山本さん。

小麦粉の甘さを引き出し、しっとりとした食感を生み出すようなこの作用は、弱アルカリ性の水よりも強アルカリ性の水のほうがより強く表れるという。そのため、「銀座に志かわ」では独自のアルカリイオン整水器を使い、強アルカリ性の水を使用している。

パンを作るには最適とも思えるアルカリイオン水だが、商品の開発には苦労もあったという。「一般的に、パンを作るには硬度のやや高い水を使うのがよいとされています。軟水だと焼き上がったパンの形が崩れてダレてきてしまいますから。しかしアルカリイオン水は硬水というわけではありませんから、やはり焼き上がりがダレてしまう。発酵に使っている生イーストも不活性化させてしまうんですよ」。しかし、この問題もアルカリイオン水のpHを高め、最適な数値を割り出すことで解決した。

山本さんがパンの道に入った当初、水への関心はそれほどなかったという。それが20年ほど前から水道水のカルキを除く浄水器がパンの世界にも導入されはじめ、そして今回、アルカリイオン水を独自に取り入れた。「銀座に志かわ」は、この水へのこだわりをしっかりと味わってもらうため、シンプルな食パン一本で勝負。食パンのみの店だからこそ、その精度も上がり続けているという。

「毎日この食パンを作りながら、細かくデータを取っています。これは専門店ならではの強みではないでしょうか。季節や気温、天候によって材料の比率や温度を変えています。夏には生地のミキシングの際に温度が上がり過ぎてしまいますから、強アルカリイオン水の氷を入れて細かく調整しています」

銀座に志かわ
ごはんのような甘味で、きんぴらごぼうなどの惣菜や醤油麹、赤ワインなどにも合う。

若い未経験者の参入で業界の活性化にもつながる

正確なデータを取ることによって、未経験者でも一定の研修で焼けるようになるという「銀座に志かわ」の食パン。フランチャイズオーナーになりたいと、若い女性の志望者が多く集まっているそうだ。「若い人たちがどんどん入ってきてくれれば、業界の活性化にもつながります。パンの世界も働きやすい環境が整うように、私たちがリードしていきたいですね」と山本さんは語る。
アルカリイオン水が引き出す、ごはんを食べたときのような穀物の甘味で、一度食べればまた恋しくなる「銀座に志かわ」の食パン。そのおいしさと人気で、パンの新たな可能性を見出している。

<アルカリイオン水でつくるパン>
小麦の甘さを引き出し、ごはんのような自然な甘さに
山本さん曰く、アルカリイオン水が小麦の甘味を引き出してくれるため、砂糖を使わず自然な甘さの食パンに仕上げることができる。
水分が蒸発しにくいため、しっとりとキメの細かい生地に
水と油をつなぐ乳化作用もあるのではないかというアルカリイオン水。水分が蒸発しにくく、ツヤツヤとキメが細かい生地に。

銀座に志かわ 山本 厚さん
Atsushi Yamamoto
1951年静岡県生まれ。大学時代に「ポンパドウル」横浜元町本店のフランスパンに感動したことから同店にアルバイトとして入り、そのまま社員に。30年ほど勤めた後、麻布十番「モンタボー」などを経て「銀座に志かわ」の技術担当役員に就任。アルカリイオン水に着目し、「銀座に志かわ」の食パンを開発した。
銀座に志かわ

銀座に志かわ本店
東京都中央区銀座1-27-12 キャビネットビル 1F
03-6263-2400
● 10:00~18:00(売り切れ次第終了)
● 不定休
● 食パン 1本800円
ginza-nishikawa.co.jp


河﨑志乃=取材、文 平石順一=撮影
text by Shino Kawasaki photos by Junichi Hiraishi

本記事は雑誌料理王国第300号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第300号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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