クロード・モネのニンニクスープ


クロード・モネはどんな人物だったのだろうか?印象派の巨匠として、世界中でその作品は親しまれている。もっとも知られている画家のひとりといっても過言ではないが、その人柄まではあまり知られていない。

代表作とされる「睡蓮」の連作を、画家は300点ほど描いている。この作品︵写真上︶では、水面に浮かぶ睡蓮の葉と花に焦点をぐっと絞り、うっすらと当たる陽の光が粗いタッチの白い絵の具で表され、これから辺りが暗くなる様子が巧みに表現されている。水面の深い青色は水の冷たさを連想させる。綿密な描写ではなく、モネは大胆な筆づかいで微妙な光と空気感を描き出している。

睡蓮が描かれたジヴェルニーの庭は、画家の人物像を少なからず伝えてくれる場所のひとつ。42歳の春、モネはパリから時間ほど離れた小さな村、ジヴェルニーに家を借りた。この家には1万2000平米もの広大な庭があり、以前より園芸に興味のあったモネは、この庭を理想の「花の庭」にするべく情熱を注ぐ。「庭造りが忙しくて絵が描けない」と画商にもらすほどに熱中した。土を耕し、花の苗を植え、ガーデニング雑誌を読みあさり、苗木の通信販売など最新の流通を利用して美しい花を100種類以上集めた。その後この家を購入し、モネの庭造りへのこだわりはさらに過熱。温室を作り、珍しい植物の栽培にも取り組む。さらに土地を買い足して睡蓮の庭を造園。モネのこだわりはますます深くなっていく。

モネは食にもこだわっていたことは以前ご紹介した。庭造りを趣味としながらも、絵画の制作に没頭するモネにとって、日に三度の食事はかけがえのない気分転換の時間だった。モネのレシピノートに綴られるこのニンニクスープはすりつぶしたニンニクと溶き卵を合わせていくシンプルなもの。味わい深く、体を芯から温め、力づけてくれる。ニンニクの香りと独特の存在感に、パセリとクルトンが加わることによって味が幾重にも口の中で重なっていく。素材の力強さを感じさせる、土と親しかったモネらしいスープだ。

ジヴェルニーに暮らし始めて43年後、86歳でモネはこの地で亡くなった。死の直前まで睡蓮を描き続けていた。何事にもこだわりを貫く画家の強さは、このスープにも、そして作品の中にも生き続けている。

クロード・モネ「睡蓮」
1897-1898年/油彩/キャンヴァス73㎝×100㎝
個人蔵

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【レシピ】クロード・モネのニンニクスープ

ブイヨンを使わず、ニンニクと卵だけのシンプルなスープ。パセリとクルトンで味の変化をつけたいので、このふたつはたっぷり用意して。寒い季節におすすめの、体が芯から温まる滋養あふれる味 。

材料

ニンニク 6~8片
卵 4個
水 800㎖
塩 適量
コショウ 適量
食パン 2枚
バター 30g
パセリのみじん切り 1カップ

作り方

  1. ニンニクの皮をむき、半分に切って芽の部分を取り出す。
  2. 鍋に水を入れ、沸騰したら1のニンニクを入れ、20分ほど中火で煮る。柔らかくなったら、フードプロセッサーでスープ状にする。
  3. 別鍋に卵を割り入れ、よく溶いておく。
  4. 卵が熱で固まらないように、よく混ぜながら、3の鍋に2のスープを少しずつ加えていく。
  5. 塩、コショウで味をととのえ、よくかき混ぜながら、弱火で2分間ほど温める(火を入れすぎると卵が凝固、分離するので注意すること)。
  6. 食パンをさいの目に切り、バターでカリカリになるまでゆっくりと炒め、クルトンを作る。パセリのみじん切りとクルトンをスープに添える。

Claude Monet 1840−1926
フランス・パリ生まれ、ノルマンディー育ち。印象派の代表的画家。園芸好きで知られ、パリから北西に80kmほどの小さな村・ジヴェルニーで庭造りに励む。6冊のレシピノートを書き残すなど食へのこだわりも強かった。


文・料理 林 綾野
キュレーター。美術館における展覧会の企画、美術書の執筆、編集に携わる。企画した展覧会に「パウル・クレー線と色彩展」など。『ゴッホ旅とレシピ』『モネ庭とレシピ』、近著に『フェルメールの食卓』(すべて講談社刊)。

北村美香・構成 竹内章雄・写真(料理)

本記事は雑誌料理王国2011年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年1月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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